立命館大学デザイン・アート学部/デザイン・アート学研究科(仮称)インタビュー[後編]
■コンセプトを伝えるデザイン力の育成
Q:デザインというと、プロダクトとして芸術作品になり得るものをつくるという意味でのデザインももちろんあると思うのですが、他方、経営学でいうデザインや、ビジネスを設計する等、より広い意味でのデザイン、あるいはアートもあると思います。後者を志向する学生に対しても、当学部の門戸は開かれているのでしょうか。
八重樫:はい、もちろんです。特にそのような広い意味でのデザインやアートにおいては、自分が社会に対して何を問い何を訴え、実現したいのかという「コンセプトを持つ」ことが極めて重要です。
コンセプトは、すべてのアイデアやプロジェクトの核となるものであり、デザインの方向性や意図を明確にし、他者と共感を生むための出発点となります。コンセプトがなければ、いかなる形であれ、持続的で意味のある社会的成果を生むことは難しいでしょう。
しかし、現代社会においては、コンセプトを持つ「だけ」では不十分です。情報が氾濫し、メディアが多様化するなかで、いかにそのコンセプトを効果的に形にし、他者に伝えるかが大きな課題となっています。コンセプトは、言葉だけではなく、具体的な形を持たせ、視覚的・身体的に表現されて初めて他者に伝わるものです。つまり、「コンセプトをどのような方法で、どのチャンネルを通して伝えるか」という点が、デザインやアートのプロセスにおいては不可欠だと言えます 。
新学部/研究科では、学生に「コンセプトを持つこと」の重要性を理解してもらうだけでなく、そのコンセプトを形にして表現する力を養ってもらいたいと考えています。これは、従来のデザイン技術やハンドスキルにとどまらず、アイデアや思考を的確に視覚化・身体化し、他者と共有できる力です。広い意味での「可視化」や「身体化」という能力を身につけ、自己のアイデアを社会に発信し、影響を与える力を磨いてほしいと思います。こうした能力は、ビジネスや経営学においても非常に重要なスキルであり、私たちは学生一人ひとりがその力を発揮できるようサポートします。
Q:「可視化」というと、デザインとして描出するとか、メディアごとに適切な表現方法を選択して伝えることかと存じますが、「身体化」とは具体的にどういうことを意味するのでしょうか。
八重樫:「可視化」というと、どうしても視覚に頼るイメージがありますよね。「身体化」は、五感を使うことを指します。
また、自分が動くことも大切だと思います。例えば、新学部の魅力を伝えるためには私が高校に足を運ぶ必要がある、オンラインで講演しているだけでは伝わらないことに対しては、自分が動かなければならないと思うのです。
そうした積極的な行動力のようなものも「身体化」に含まれていると思います。自分の身体を使ったパフォーマンス、五感を使ったパフォーマンスをしっかり考えることが「身体化」です。そのように考えると、自身のコンセプトを伝える手段は、従来のような単に絵を描くことだけではなくなってくると思います。
企業が今、一番力を入れるべき課題だと感じているポイントは、コンセプトや、経営学で言うところのビジョンやパーパスを、形にして明確に伝えることです。そうしたコンセプトを人々にしっかりと伝えることができるデザイン力をコアとして持つ人材を、我々は育てていきたいと考えています。
Q:「身体化」は五感それぞれに訴えかけるものとのこと、よく分かりました。五感というと、聴覚もそこに含まれますが、例えば音楽もデザイン・アート学部/デザイン・アート学研究科が扱う表現方法に含まれるのでしょうか。
八重樫:デザイン・アート学部/デザイン・アート学研究科で、特別に音楽を取り上げ、それだけで授業やコースになっているということはありません。しかし、自分が決めたテーマを表現するためのチャンネルとして音楽や音を選び、卒業制作としたり、修士課程や博士課程で研究対象としたりすることは、当然あり得ます。
Q:広い意味で、メッセージ性のあるメディアとして、音楽を選択することも可能だということですね。
八重樫:はい、そうですね。また、それは音楽に限らず、例えば身体的なパフォーマンス、古典的に舞踊や舞踏と呼ばれるものであったり、現代的なダンスや、もう少し広範にフィジカルなパフォーマンスと言われるものをテーマとして取り上げたり、あるいは自身がパフォーマーになるような学生も出てくるかもしれません。デザイン・アートというと、視覚に偏りがちですが、こうした五感に拡がる多様な表現を積極的に追究していってほしいですね。