オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

【Ⅲ.学生の変化】Part.3「現場の課題と各大学の取り組み」-全国国公私立大学学長アンケート2024-2025 詳細分析-

設問Ⅲ- 学生のメンタルヘルスをケアする体制の効果

設問Ⅲ-8では、次の図54中のa~dの各体制・施策に対し、効果の程度を問うた。

図54 設問Ⅲ-8(貴学において、以下の体制・施策に学生のメンタルヘルスをケアする効果は感じられますか)

「a.学生相談室など専門の部局」に対しては、「効果が感じられる」と回答した大学が67.0%であった。「どちらかというと感じられる」と回答した大学(25.8%)も足すと92.8%となり、ほとんどの大学でその効果を実感しているようである。

「b.常駐カウンセラー」に対しては、「効果が感じられる」と回答した大学が56.8%であった。「どちらかというと感じられる」と回答した大学(17.7%)も足すと74.5%となり、a同様、こちらも多くの大学がその効果を実感しているようである。

「c.専門職員」に対しては、「効果が感じられる」と回答した大学が46.4%。「どちらかというと感じられる」と回答した大学(23.8%)も足すと70.2%であった。

上記a~cいずれにおいても、「効果が感じられない」寄りの回答をした大学は3%に満たない。また、「体制がない・実施していない」と回答した大学は、収容定員3,000人未満の比較的小規模な大学がほとんどを占めている(aは10校すべて、bは66/76校、cは67/92校)。

「d.定期的な学生のメンタルヘルス調査」に対しては、「効果が感じられる」と回答した大学の割合が26.7%と低めであった。「どちらかというと感じられる」と回答した大学も足しても59.7%と6割に満たない。ただし、これには「定期的な学生のメンタルヘルス調査」を実施していない大学が3割強あることも影響していると考えられる。

一方で、「効果が感じられない」寄りの回答をした大学も6.1%存在し、a~cに比較して高めである。なお、「定期的な学生のメンタルヘルス調査を【実施していない】」と回答した大学に、a~cのような規模による偏りは強くあらわれなかった。


設問Ⅲ- 体制・施策が効果を発揮できていない理由

設問Ⅲ-9では、設問Ⅲ-8の項目a~dについて「効果が感じられない」寄りの回答をした大学に対し、その体制・施策が効果を発揮できていない理由として考えられることを問うた。「a.学生相談室など専門の部局」「b.常駐カウンセラー」については、学生の周知不足が共通して挙げられていた(以下、回答は記事掲載用に一部表現を改めている)。

<体制・施策が効果を発揮できていない理由>
【a.学生相談室など専門の部局】
・カウンセラーが常駐しておらず、また狭いキャンパスのため相談しにくい可能性が考えられる
・存在の認識が薄い
・在学生が相談室に関心を持たない
  上記のほか、相談室への相談件数が大幅に減少している事実を、データを根拠に述べるものもあった

【b.常駐カウンセラー】
・在学生へのPR不足
  このほか、「通常は常駐の保健師が対応しており、非常勤のカウンセラーに来てもらえるのはケースが重い場合に限られているため」との回答も見られた

【c.専門職員】
回答無し

【d.定期的な学生のメンタルヘルス調査】
・個々の状況把握ができない(無記名回答アンケート方式のため)
・学生が抱えている問題が多様化しているため、アンケート調査だけでは把握が困難
・調査結果によりメンタルヘルスに問題を抱えていそうな学生を抽出するも、面談への来談率が低かったり、相談室への来室につなげられなかったりする
・アンケートは学生が作為的に回答できてしまう
・結果がすぐに出ないとタイムリーな対応が難しい

【a~dすべてにおいて効果が「感じられない」あるいは「どちらかというと感じられない」と回答】
・話を聞くことはできるが、成人を迎えある程度成熟した学生においては直接的な解決まで至ることが困難である
・カウンセリングが、秘密めいて病気のような捉え方を今でもしている職員がいる


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