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複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

【Ⅲ.学生の変化】Part.1「学生のメンタルヘルスと休退学」-全国国公私立大学学長アンケート2024-2025 詳細分析-

【目次】
Part1「学生のメンタルヘルスと休退学」
■ 「全国国公私立大学学長アンケート2024-2025」概要
■ 設問Ⅲ-1 メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減について
■ 設問Ⅲ-2 休学者の増減について
■ 設問Ⅲ-3 退学者の増減について
■ メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減と、休退学者の増減の関係について
Part2「学生からの相談内容」
■ 設問Ⅲ-4 相談件数の多寡について
■ 設問Ⅲ-5 相談件数の増減について
■ 相談件数の増減と、メンタルヘルスに問題を抱える学生・休退学者の増減の関係について①
■ 相談件数の増減と、メンタルヘルスに問題を抱える学生・休退学者の増減の関係について②
■ 設問Ⅲ-6 学生から相談される内容について
Part3「現場の課題と各大学の取り組み」
■ 設問Ⅲ-7 学生のメンタルヘルスの問題に対応するにあたり最も課題となっていること
■ 設問Ⅲ-8 学生のメンタルヘルスをケアする体制の効果
■ 設問Ⅲ-9 体制・施策が効果を発揮できていない理由
■ 設問Ⅲ-10 学生のメンタル不調への対応や不本意な退学の防止に効果をあげている取り組み


■ 「全国国公私立大学学長アンケート2024-2025」概要

KEI大学経営総研(河合塾グループ KEIアドバンス)は、2025年1月から3月にかけて、全国の国公私立大学の学長を対象とするアンケート調査を実施した。本アンケートの趣旨は、大きな環境的変化にさらされている大学の現状を調査するとともに、全国の学長に自大学の取組みを問い、その結果の集計・分析を通して、今後の大学経営におけるヒントを提供することにある。

2023年度に初回調査を実施。その結果分析を踏まえ、2024年度は、各大学の学長にとり特に重要と考える以下6つのテーマに関して、深掘りする調査を行った。

Ⅰ.大学の基本情報
Ⅱ.大学経営のビジョンおよび未来の大学
Ⅲ.学生の変化
Ⅳ.学生募集・広報
Ⅴ.入学者選抜
Ⅵ.大学の国際化


2024年度は全国の国公私立大学786校にアンケートへの協力を依頼。345校から回答が得られ、回収率は43.9%であった。なお、回答校の設置区分の内訳は、国立大学44校、公立大学53校、私立大学248校である(図1)。

図1 回答大学内訳(設置区分別)


また、本部所在地*および収容定員別の回答数は、次の図2・3の通り(*各エリアに分類される都道府県は以下を参照)。

東北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
北関東:茨城県、栃木県、群馬県
埼千神:埼玉県、千葉県、神奈川県
甲信越:新潟県、山梨県、長野県
東海:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
北陸:富山県、石川県、福井県
近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州:福岡県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県(今回、佐賀県は回答校なし)

図2 回答大学内訳(本部所在地)

図3 回答大学内訳(収容定員)


以下は、「Ⅲ.学生の変化」に関する詳細分析結果である。


設問Ⅲ-1 メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減について

設問Ⅲ-1では、2019年以前と現在を比較し、「メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減」を問うた。

全回答数345校中260校の大学(75.4%)が、コロナ禍以前と比較して「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えた」と回答。コロナ禍以後、大学生のメンタルヘルスが悪化していること、大学生の精神的健康に係る問題が増加傾向にあることが明らかとなった。これまで認識されていなかった精神的健康に関する問題が顕在化してきた可能性も考えられる。
なお、「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えた」と回答した大学の設置区分の内訳は図5の通り。

図4 メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減について(全体)

図5 メンタルヘルスに問題を抱える学生が「増えた」と回答した大学の内訳(設置区分)


この結果は、全国の大学で同一の傾向が見られるのだろうか。あるいは、特定の条件に依拠するのだろうか。以下、設置区分、本部所在地、収容定員別に集計を行い、確認していく。

【設置区分】
いずれの設置区分においても、メンタルヘルスに問題を抱える学生が増加傾向にあることは全体版と同様である。ただし、各設置区分に占める「増えた」の割合は、国立<公立<私立の順で高く、特に私立大学においては全国値を上回っている。

図6 設問Ⅲ-1(設置区分別)

【本部所在地】
いずれのエリアにおいてもメンタルヘルスに問題を抱える学生は増加傾向にあるが、特に四国(90.0%)九州(87.9%)東北(83.3%)埼千神(80.0%)北関東(77.8%)東京(77.4%)の6エリアで全国値を上回る結果となった(割合はエリアごとの回答大学数を分母としている)。およそ首都圏と南北両地方で高値となっている。

なお、前述の設置区分別の集計において、国公立大学と比較し、私立大学でメンタルヘルスに問題を抱える学生の増加傾向がやや強く見られたが、上記6エリアに私立大学が特別多く含まれるわけでない。よって、私立大学の多寡が本結果に影響を及ぼしていると必ずしも言うことはできない。

また、「減った」と回答した大学の割合が全国値を上回るエリアも散見されるものの、回答数に鑑みると、参考として扱うのが適当であろう。

図7 設問Ⅲ-1(本部所在地別)

【収容定員】
収容定員別の集計においても、傾向は全体版と同様であり、いずれの規模の大学でもメンタルヘルスに問題を抱える学生は増加傾向にある。また、設置区分および本部所在地との相関は確認できない。

図8 設問Ⅲ-1(収容定員別)

以上より、設置区分、本部所在地、収容定員別いずれの集計においても、全体版の集計同様、メンタルヘルスに問題を抱える学生は増加傾向にあることが確認できた。このことから、コロナ禍以後、メンタルヘルスに問題を抱える学生が増加していることは、大学全体の傾向として正しいと言える。


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