「食は総合科学」の時代に 文化、科学、DX、そしてデザイン&コミュニケーション
【3】京都府立大学 文学部 和食文化学科(2019) → 農学食科学部 和食文化科学科(2024)
3番目は、京都府立大学 農学食科学部「和食文化科学科」である。当初は「文学部・和食文化学科」が前身で、和食が2013年12月にユネスコの無形文化遺産に登録され、世界的にも注目を集めるようになった後の2019年4月に設置された。
和食文化学科での学びの特徴はなにか。大学のホームページの「教育の方針」によると、以下のようになっており、文学部内への設置当初から文理の垣根を設けていなかったことがわかる。
「和食文化学科では、文系・理系の枠を超えて和食を多角的にとらえ、和食文化を、人類学・歴史学・文学・経営学・食科学などの専門的な視点から学びます。これら座学を中心とした学びとともに、食に関わる料理人や生産者、消費者が、何を見、何を感じているかを演習・実習で学び、食文化の可能性を開く能力を養います。和食文化の学識の上に、真の教養人として、現代人の知的関心に応え、世界に日本文化を発信する人材の育成をめざします」
カリキュラムは「食人類学」「和食史学」「和食文芸」「食経営学」、そして食品科学や栄養学を主に学ぶ「和食科学」の5つの専門分野が設けられている。
代表的な授業として「食文化原論」「和食の歴史」「仮名文字入門」「食環境を巡る国際社会と日本」「京料理の科学」「和食サービス論」などが挙げられており、食の中でも「和食」という特化したジャンルの文化的な理解と発信が重視されていることが見てとれる。
この和食文化学科が、京都府立大学の全学的な改組再編に伴い、2024年4月からは農学食科学部 和食文化科学科として新しいスタートを切ることとなった。新・和食文化科学科の特徴は以下のとおりである。
「日本社会の伝統的な食文化に内在する普遍的価値の探求を目的として、生活文化としての食をサイエンスと人文・社会科学を横断する手法により読み解くとともに、食の現場で起きていることを自らの手で学び取る技量を身につける教育・研究を行い、日本における和食文化を継承・発展させ、和食が持つ魅力とその神髄を世界に向けて発信できる人材を養成」
「現在の和食文化をとりまく『和食史学』『和食芸術』『食宗教学』『食人類学』『食のサステナビリティ学』『食経営学』『和食科学』『発酵生理学・応用微生物学』を中心に、教養・専門科目を通じて広範な知識を修得します。人文・社会・自然科学の異なる分野の学問が幅広く連携することで、和食文化の新たな領域を拓く学びを提供」(京野菜などの)「食品機能性についての科学的解析方法」
このように、新学部での併設学科である農学生命科学科や栄養科学科にも関連する学びが強化されている。
「文理を超えた学び」は継続され、文化的理解や発信というアウトプットの部分は同様だが、基礎的な部分でやや理系的な要素が増えている。
一方、初年度となる2024年度入試においては、2次試験の志願者数を見ると、併設2学科と同様の英語・理科2科目という理系寄りのBパターンでの志願者が16名であったのに対し、英語・国語・地歴のAパターンが37名と、文系寄りの受験生が多い結果であった。(募集人員はA・Bとも各10名)
出典:https://www.kpu.ac.jp/education/literature/japanese-meal/
食に関する学びが総合科学化する背景には、第一次産業(農林水産業)中心の産業観から第二次産業、第三次産業も含めた六次産業化への移行を進める政策も影響していると思われるが、直近ではさらにDXとの掛け合わせによるスマート農業への取組みが増えている。一例を挙げてみよう。