なぜ女性弁護士は少ないのか? 法学教育の今(早稲田大学)
なぜ女性弁護士の方が「稼げない」のか
◆:さきほど、女性弁護士は、収入が少なくなるという話がありましたが、これは、単に出産育児などで働けなくなるから、というのが原因なんですか?また、同じ仕事をやっていても、女性だというだけで好待遇を受けにくい、という例はあるのでしょうか?
石田:これには、複合的な原因があり、ケースもいろいろです。実は、2010年の調査では顕在化していた20代若手弁護士間の男女格差は、2020年の調査ではなくなっているんです。形式的には、性別による差別はなくなる方向に動いています。
かつては、忙しかったり、羽振りが良かったり(儲かっている)法律事務所は、女性弁護士をそもそも採用しないというところもあったと聞きます。固定給にプラスして担当した仕事による変動給がある場合、大変だけど儲かる仕事は、最初から男性に振られる。男女で顧客が違うんですね。一方、報酬が少ない家事事件の多くは女性に振る。そういうことが結構あったようです。こういったことが、若手の時から積み重なると、後々年収やキャリアで差が出てくることになります。
最近は、若手の男女格差は少なくなりましたが、それでもなお、如実に格差が表れているのは、30代のワーク・ライフ・バランスですね。子どもができると、女性は大きく年収がダウンする。これが未だに40代や50代以降のキャリアに甚大な影響を与えるようです。
◆:同じ案件を扱っている弁護士でも、目に見える男女差があるのですか?
石田:それは、おそらく少なくはなっています。しかし、ボス弁、つまり上席のパートナー弁護士で、仕事を振る権限を持っているのは、いまだ圧倒的に男性が多いんですね。そうすると、無意識に、悪意はなくとも、あの女性は、お子さんがいるから、この事件をやってもらうのは大変だから、簡単な仕事を振るようにしよう、とやってしまうんです。
すごく偉い弁護士さんが、「うちは女性弁護士さんを皆働きやすくしているんですよ。なぜなら、女性弁護士が出産したら、もう上に行くキャリア・トラックから外すんです。その代わり、パートタイムの裁判官の仕事をあげるんです。彼女らも満足していますよ」と平気で言っているのを聞いたことがあります。しかも、それがよいことだと本気で思っている節もある。往々にして、彼らの配偶者は専業主婦です。専業主婦の「奥さん」のことしか知らないと、女性が子育てしながら激しい仕事をするなんて想像もできないのでしょう。社会の中に頑としてあるジェンダーの問題が、縮図のようにして弁護士業界に表れているという感じです。