「育児かキャリアか」の2択ではない 「どちらも頑張る」も可能なのがあるべき姿
東工大で「法学」の研究?それからワシントン大学へ
◆:石田先生は日本とアメリカの両方の大学・大学院を出られていますが、ご経歴を教えてください。
石田:学部はICU(国際基督教大学)です。最初は、憲法学を勉強したくて、奥平康弘先生のゼミに入りました。ただ、奥平先生は私の在学中にお辞めになられて、その後は、千葉眞先生のゼミで西洋政治思想史を勉強しました。学部の卒業論文では、手続の公正さについて考察しました。
学問的には、憲法学に興味があったものの、法文の解釈がやりたいわけではなかった。大学院に進学したいと思ったとき、東京工業大学大学院の社会理工学研究科(当時)に、「価値システム専攻(通称VALDES)」という文理融合を謳った新しい専攻ができたと知りました。そこでは、法律も、経済分析やゲーム論も研究できる、面白そうだ、と考えて受験し受け入れてもらいました。
大学院では、訴訟上の「和解」をテーマに研究を行ないました。和解とは、民事紛争で当事者同士が譲歩することで判決に至らずに終わるメカニズムですが、修士論文では、これをゲーム論を使って検討しました。その後、博士課程在学中に奨学金を頂いてシアトルにあるワシントン大学に行くことになりました。
法学の大学院(LLM)に進む場合、本来は法学部を卒業していないと入学できないところも多かったのですが、当時はまだ牧歌的なところもあり、また、ワシントン大学は日本の法制度に理解があり、入れていただきました。
ワシントン大学の修士1年間で、「仲裁」という第三者が判断する私的裁判の仕組みについて研究しました。その時、ちょうど日本では、新しい仲裁法ができるタイミングでした。その後、運よく博士課程にも進学し、法曹倫理の研究に着手することになります。
その経緯も、とても奇遇なのですが、法律・司法の分野で比較法的な研究をしたいと思っていた時に、たまたま、現地の教授で、サバティカルで行った日本から帰ってきた先生がいらして、その方が法曹倫理の専門家だったのです。そして、こんなことを言うんです。「アメリカ人から見ると信じがたいことだが、日本ではいままで法的に拘束力のある「弁護士倫理」というものがなかったが、それを2004年に初めて作るらしい」と。
彼は、アメリカから日本に行ったら、その分野の専門家なので、あちこちに呼ばれて、日本で新しく制定される弁護士倫理(弁護士職務基本規程)に関連して、講演や意見交換をしていたんですね。それで、こんな面白い比較法の題材はないから、だれかこれを研究する人はいないか?と探していたんです。そこで、私が立候補しました。もちろん、その先生に指導教授になっていただいて、他にも法社会学や比較法の研究者に指導していただきながら、無事、2006年に博士号(Ph.D.)を取って日本に帰ってきました。