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  • 複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部 インタビュー[前編]

井上:デザイン思考の第1回目の授業では、まずは教員が研究テーマ、ターゲットを指定し、解決のためのプロセスも指示したうえで、学生たちには課題に取り組んでもらいます。入学したての1年生に、「自分で興味のあるターゲットを探してきなさい」と言ったところで、「自分の興味」がまだわからない人も多いからです。

 小学校の自由研究でも、研究テーマや研究プロセスを自由に発想できる人もいれば、当然できない人もいますよね。そのときに、例えば、「誰かが困っている課題を探してみよう」というようなテーマが与えられれば、後者でも少しそこに集中して考えることができるのではないでしょうか。先ほども申し上げましたが、一度も研究プロセスを経験しないまま「自由にやってみなさい」とすべて託されても、それはやはり困難です。きちんとしたプロセスを踏まないことには、自由研究はなかなか難しいと思います。そうした意味でも、問題を発見し、課題を解決するためのプロセスが学べるデザイン思考を、小学校から取り入れた方がいいと思いますね。

 やや話が逸れますが、私はデザイン思考に関する外部講演会をするときに、常々、「最初は型から入る必要がある。まずは型をきちんと身につけよう」という話をしています。十八代目 中村勘三郎さんも「型があるから型破り。型がないと型なし」とおっしゃっていましたが、私もこの考えに深く共感します。

 デザイン思考においても、重要なのは「守破離」なのです。「守破離」とは、歌舞伎や華道、茶道等の日本の芸事において、人が知識やスキルを身につけていく過程を示した言葉です。私はこの考え方を素晴らしいと思っており、実はこの「守破離」の手法を、私のデザイン思考の授業に取り入れています。

 具体的には、大学1、2年生のときに徹底的に「守」をやり、卒業研究で「破」のあたりまでたどり着いて、大学院になるとようやくオリジナルの「離」へ至るようなイメージです。

 デザイン思考の第1回目はまさに「守」。こちらからテーマを与え、課題解決の手順について指示を出すことで、学生たちに基礎・基本の型をきちんと身につけさせます。この「守」ができるようになって初めて、少し自分のアイデアも入れて、基本から少し離れること、すなわち「破」にトライさせてみます。そして、「破」もできるようになってようやく、オリジナルの発想、すなわち「離」へ進んでも良いと指導してします。つまり、「守」「破」ができていないのに、いきなり「離」に進むことが決してないよう注意が必要なのです。

井上:汎用性があるというのが、まさしくデザイン思考の魅力です。我々はものづくりの方面でデザイン思考を取り入れていますが、おそらく経済分野や経営分野、教育分野など、さまざまな方面で活用が可能であると考えます。

 「ものづくり」というと、0から1を生み出していくイメージがあるかと思いますが、他方、1から無限大、つまり元々あるものを別の発想で違うものに展開することもまた「ものづくり」です。そして、課題解決への新たなアプローチを求められている点において、後者はまさに、デザイン思考的であると言えるでしょう。

2025年4月開始、eスポーツプロジェクトは後編にて!


大阪工業大学 井上明(いのうえ あきら)教授

プロフィール
大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部学部長。
大阪工業大学工学部経営工学科卒業、同志社大学大学院政策科学研究科政策科学修士課程修了、同大学院政策科学研究科総合政策科学博士課程中退。2008年、同志社大学大学院総合政策科学研究科博士学位取得(政策科学)。
教育工学者。情報処理学会員、日本教育工学会員、教育システム情報学会員。一般社団法人ReBaLe推進協議会代表理事。
聖泉短期大学、甲南大学で勤務したのち、2017年より大阪工業大学で教鞭をとる。論文執筆、研究発表のみならず、学外での講演にも精力的に取り組んでいる。

受賞歴:
2007年情報処理学会第68回全国大会優秀賞。2008年情報処理学会情報システム教育コンテスト先進教育賞。2019年情報システム教育コンテスト最優秀賞。


インタビュー:満渕匡彦・原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・編集 :山口夏奈(KEIアドバンス コンサルタント)

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