編集工学研究所・安藤昭子氏インタビュー

大学時代には「好奇心をもち、問いを抱き、挑戦する」トレーニングを

―――編集工学研究所・安藤昭子氏インタビュー

松岡正剛氏に師事し、書籍編集者から「編集工学」への道へと進み、現在、編集工学研究所の代表取締役社長を務める安藤昭子氏。「内発的な“問いを編集する力”は、人間だけが持ちうる資源である」と述べ、“問いを発する力”と“編集力”の重要性をうったえる。大学時代の「学び」が画一化されがちな現代において必要なものは何か。“本づくり”を志した大学時代から現在にいたるキャリアにおいて、どのようなことを考えてきたのかを聞いた。


●自分なりに「学び」を組み立て始めた大学時代

安藤:フェリス女子学院大学の文学部英文科に通ったのですが、当時は漠然と「本に関係する仕事がしたいな」と思っていました。「佇まいとしての本」が好きというか。翻訳の仕事にも興味があり、大学で授業を受けたあとに翻訳学校に通うなど、自分なりに「学び」を組み立てみようと考え始めた時期です。

安藤:小学校高学年の時に、内藤濯さんが訳した『星の王子さま』を読んで、その言葉の面白さや美しさにすっかり魅せられました。「作者は日本人ではないはず。それなのに、なぜ私はこの本をこんなに素敵な日本語で読むことができているんだろう」と不思議に思い母にたずねたところ、「翻訳家」という職業について教えてもらいました。

以来、翻訳家への憧れが消えず、大学生になって翻訳家になるための具体的な勉強を始めてみたのですが、読むのと訳すのとでは大違いということがわかりまして、結局挫折しました。それでも、本に関わる仕事はしたかったので「出版社で働き、本をつくる側の仕事をしよう」と思い、就職活動は出版社だけに絞りました。

安藤:当時、フェリスから出版社を受けようとする学生はほとんどいなかったようで、大学のキャリアセンターでも「申し訳ないけれど事例を紹介できない」と言われてしまいました。結局、京都に本社を置く出版社に就職が決まり、その東京支社で書籍編集部に配属されました。

安藤:最初に担当させていただいたのは、ケヴィン・オークインというメイクアップ・アーティストの『アート・オブ・メーキャップ』という本でした。世界的なメイクアップ・アーティストであるオークインが、広告写真等で手掛けた自身の作品を紹介しながら一般読者に向けてメイクアップの手ほどきをするという内容です。ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京と、世界4都市で同時に発売するという企画で、私は日本語版を担当しました。

当時、まだ入社して半年の新人の上に、他の3都市と連携しながら、限られた予算とスケジュールで進行しなければならず、さまざまな困難に直面しました。「コストがかかりすぎる」という理由で、企画自体が頓挫しそうになったことも。それだけはどうにかして避けたかったので、そうだ広告を取ろう、と思い立ちました。「雑誌に広告が入るなら単行本にも」という素人考えに、上司は「何を言ってるんだ」と取り合ってくれません。いま考えれば怖いもの知らずもいいところですが、そのときは本を世に出したい一心だったので、広報部や営業部の先輩に相談してまわりながら企業さんを訪ね歩き、結果として資生堂さんから協賛を得ることができました。同社のブランディングにも意味のある本だと判断してくれたようです。

本が出来上がった時は本当に嬉しくて、発売日には六本木の青山ブックセンターでお客さんのふりをして見張ってしまいました。誰かに手に取られるたびにドキドキして、初めてレジに持っていってくれたお客様に思わず後ろから「ありがとうございます!」と声をかけてしまい、ギョッとされました。結局この本は、後にアート部門でその年のベストセラーにもなり、ものをつくることの面白さを強烈に体感させてもらった最初の出来事となりました。

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