
『民主主義と東京大学 大学の自由と使命を考える』宇野重規 編(東京大学出版会刊)
『民主主義と東京大学 大学の自由と使命を考える』宇野重規 編(東京大学出版会刊)
傑出した知性たちによる全身全霊をかけた応答
■本の内容
1877年の創立以来、東大は民主主義の発展といかなる関係にあったのか。そして未来に何をなしうるか――。苅部直、加藤陽子、小玉重夫、川久保皆実、宇野重規らによる2024年7月27日に東大・安田講堂で開催された「民主主義と東京大学」を書籍化。イベント当日惜しくも欠席となった加藤の書き下ろし論考と登壇者らによるディスカッションを新たに収録する。
【執筆者一覧】
宇野重規 東京大学社会科学研究所教授
苅部 直 東京大学法学部教授
加藤陽子 東京大学大学院人文社会系研究科教授
小玉重夫 東京大学名誉教授/白梅学園大学学長
川久保皆実 つくば市議会議員/弁護士
【本書「はじめに」より】
言うまでもなく、大学は世界の知が結集する場所であり、あらゆる世代の多様な人々が学び、羽ばたいていくための場所である。そのような大学を攻撃することは、ゆくゆくは人々の自由な思考を制限し、社会の活力を蝕むことにつながりかねない。にもかかわらず、多くのポピュリスト政治家たちが大学に標的を定めるのは、それが最も安手な票稼ぎの手段となるからである。言い換えれば、大学叩きを評価する人たちが一定数いることもまた、残念ながら事実として認めざるをえない。大学は権威の象徴であり、平等化に資するどころか特権者のための場所となり、社会の革新よりはむしろ「システム」を維持するための組織に堕している。巷を賑わすこのような大学批判の言説に耳を傾ける人々がいることを、大学人は直視しなければならない。
――(中略)――
民主主義と大学の危機は今も続いている。あるいはさらに悪化している。そうである以上、本書における議論もまた終わることはない。私たちは議論を続けなければならない。大学というものが何のためにあるのか、もう一度考えるためのきっかけとなれば、本書の編者として望外の喜びである。
■編著者 宇野重規(うの しげき):
1967年島根県生まれ。1991年東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科博士課程修了、1996年博士(法学)を取得。1996年から日本学術振興会特別研究員を務め、同年千葉大学法経学部助教授に就任。1999年東京大学社会科学研究所助教授、2007年同准教授、2011年同教授。2000年から2002年までフランス社会科学高等研究院、2010年から2011年までコーネル大学ロースクールで在外研究。2024年からは東京大学社会科学研究所の所長も務める。専門は政治思想史・政治哲学で、トクヴィル研究をはじめ、民主主義やリベラリズム、保守主義などのテーマを探究。主な著書に『政治哲学へ』『トクヴィル――平等と不平等の理論家』『民主主義とは何か』『保守主義とは何か』。
目次
はじめに
1 民主主義と東京大学(宇野重規)
民主主義について議論しよう/今なぜ「民主主義と東京大学」なのか/東京大学における民主主義を問う
2 大正・昭和のデモクラシー――吉野作造と南原繁(苅部直)
日の丸と東大/南原繁の紀元節式典/大学とデモクラシー/吉野作造と南原繁/「国家に枢要なる」に代わるもの
3 歴史のなかの東大――南原繁の終戦工作から考える(加藤陽子)
はじめに/七博士の終戦工作/法学部の一員としての責務/終戦への説得の論理/ソフトピース派とハードピース派/天皇の言葉による民主主義は可能か/戦争を終結するための調査分析/詔書の言葉の構造/おわりに
4 戦後教育と東大――学生の政治的主体化をめぐる可能性と困難(小玉重夫)
学生運動と矢内原学生問題研究所/SPS(学生補導)の導入/東大闘争と西村秀夫/全共闘に接近する西村/政治的主体化をめぐる限界と可能性/教育の論理への幽閉/エージェンシーの条件としての課外活動/私たちの過去は、明日へつながる
5 新しい選挙スタイルで地方から政治を変える――東大卒業生の挑戦(川久保皆実)
子育て当事者としての問題意識から立候補へ/「3ない原則」で無理しない選挙運動を/選挙スタイルを変革する――「選挙チェンジチャレンジの会」/市民の声を聞き、政策を実現し、公開する/「天寵を負える子ら」として
6 東大で民主主義を考える、民主主義を実践する――ディスカッション1 苅部直×小玉重夫×川久保皆実×宇野重規
「大学の自由と使命」/大学文化の変革へ/地域の当事者課題に向きあう/権威性を乗り越えていけるのか/東京大学の活動の受益者は誰か/東大生への期待/世界の民主主義と東京大学
7 「対話を生み出す場」としての東大――ディスカッション2 苅部直×加藤陽子×小玉重夫×川久保皆実×宇野重規
見えていたもの、聞こえていたものの間に/東京大学における南原繁という存在/戦争と東京大学、戦争と学問/学生や教員の変化、大学自治のこれから/東京大学の未来
定価 2,750円(税込)
刊行日 2025年9月2日