
電気通信大学 田野 俊一学長インタビュー[前編]
――今回はCBTを数学と情報の基礎学力テストに使われましたが、こちらについては期待されたような結果は出たのでしょうか。
CBTは端末の台数が限られるので、I類(情報系)の総合型選抜と学校推薦型選抜の基礎学力試験で使いました。受験生には敬遠されるかな、と心配しましたが、志願者数は減りませんでした。
CBTに対する否定的な感覚というのは、学生にはないですね。我々からすれば、いちいち入力しなければいけないので面倒そうに思われますが、受験生にとっては、漢字を書かなくて済むのでありがたい、と思うようです。
CBTはたくさんの問題を解かせるので、成績がはっきり出ます。そうすると、より成績の良い学生を取ることがきます。正直なところ、学校推薦型選抜や総合型選抜は、原則学力試験を課さないことになっているので、入学してからついていけなくなることが多いのですが、CBTでは成績が分かった上で面接をすることができます。
本学では、新入生全員に対して4月初めにCBTでテストを行います。そうすると、どの試験方式で入学した生徒がどんな成績だったかがわかるのですが、学校推薦型や総合型選抜で入学した学生が、CBT実施前よりも明らかに成績が良いことがわかりました。
私たちは情報系の大学なので、CBTを入学後の教育に使う試みも行なっています。先ほどプログラミングをやらせて、その過程も採点対象にする、ということをお話ししましたが、さらにそれを入学後の教育に活用するのです。
どういうことかというと、CBTでは「この問題を間違えたのはここの部分が分からないからだ」ということが分かります。それは、IRTで、この問題は何が分かっていないと解けない、というところまで紐づけしてあるからです。
先ほどお話しした入学当初のCBTのテストで、この学生は微積が今一つだ、この学生は三角関数のここが弱い、というようなことが分かるので、学生にはそれをフィードバックするようにしています。
さらに、この学生はこの単位を取った・取っていないというログがずっと蓄積されています。そして、結局留年したとか、退学してしまった、というデータもあります。それをつなげると、1年生の成績によって卒業率がどれぐらいか、というところまで予測できることになります。
今の入試は合格・不合格を決めておしまいです。それは単に入学定員があるから、この得点で切る、という評価方法ですが、そうではなくて、卒業する率が50%以上の学生を入学させよう、といった定性的な評価ができることになります。

電気通信大学 キャンパス内の様子(大学会館前)
――今の先生のお話で、CBTの入試だけでなく、教育に対する可能性がよくわかりました。今後のCBTの普及についてはどのようにお考えですか。
普及という点では、正直難しいですね。まず、問題プールは皆で作らないといけない。どこかにセンターを作って、いろいろな問題を貯めて、それを使ってどのレベルの人がどれくらいできるのか、というデータベースを作る必要があります。
単に合否の線引きだけでなく、どの部分の知識が重要なのか、というところまでやれば、教育にも活用できます。そのためには機構を作って、国のレベルで運用するべきですよ、という話をしています。
大学入試センターは非常に良い問題を作っていますが、作った問題はすぐ捨ててしまっています。でも、あれを溜めておいて、誰かがどこかで使う、ということにしておけば良いと考えます。そういったデータを上手く使って、高校生から大学卒業まででどんなことを覚えているか、どんな知識があるか、ということを評価できるようにするためのセンターをまず国で作って、そこにいくつかの大学が参加してプロトタイプを作って皆でシェアしたらどうか、ということを提案していますが、なかなか進んでいない、というのが現状です。