
東京外国語大学 春名学長インタビュー
--学問の社会的な意味は、非常に重要な問題だと感じています。現状、大学不要論や「勉強して何になるの?」といった疑問に、答えられる言説があまりないというか。そういったものがきちんとあると心強いと思いますね。
春名:これに関しては、私自身も壁に突き当たりました。理系から、特に工学部を卒業して、国際政治学に転向したので、それこそ「この学問のレレバンスとは?」ということにすごく悩んだ。当時の指導教員は(数学的な手法を用いて政治現象を分析する)数理政治学の専門家だったのですが、率直に言って、主体が少なく、影響力の強い少数の国によって大きく変動する国家間関係の説明に数理分析を持ち込む意義と必要性がわからなかったんです。そこが、私が政治学を俯瞰する「政治学史」を研究しようと思った、出発点ですね。その疑問は今もずっと抱き続けていています。だから、今、東京外国語大学が行っている教育が、この社会の中でレレバンスを持っているのか、ということは常に考えています。
大学教育の必要性を言語化することも大事だけれど、むしろ大学が送り出した「人」を見てもらい、その実績を重ねるしかないと思っています。「東京外大を出た学生たちは何をやらせたってできる」「コミュニケーション能力はピカイチだ」などと思ってもらえれば、社会的な支持も生まれてくるはず。だから、まずは真の意味で人を育てて、送り出す。そこに尽きると思います。
--ありがとうございます。それでは、最後に学長が、教育関係者、あるいは本サイトを訪れる高校生や受験生におすすめしたい本を教えてください。
春名:今日は何度も「人生100年」という話が出ましたが、これはもう世界的な傾向です。私が紹介したいのは、リンダ・グラットンさんの『The 100-Year Life』。日本語版もありますが、英語も平易ですから、高校生も、ぜひ原書で読んでみてください。さきほど話した、英語教育の重要性にもつながります。
春名 展生(はるな のぶお) 東京外国語大学学長 プロフィール:
東京大学工学部都市工学科卒、同大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学、2014年「進化論から地政学へ 近代日本における国際政治学の形成」で博士(学術)。2015年東京外国語大学大学院国際日本学研究院講師、2018年 同大学准教授、2023年 同大副学長、2024年 同大学教授、2025年 同大学学長。
著書:
春名展生 著『人口・資源・領土 近代日本の外交思想と国際政治学』(2015年,千倉書房)
葛谷彩,小川浩之,春名展生 編集・著『国際関係の系譜学』(2022年,晃洋書房) 他
インタビュー:原田 広幸(KEI大学経営総研 主任研究員)
インタビュー+記事/編集:山下 千智(インデペンデント・ライター/翻訳家)