
東京外国語大学 春名学長インタビュー
■ 東京外国語大学における日本語教育
--英語が重要である一方で、留学生に対しては「日本語を勉強してほしい」という気持ちもあると思うのですが、日本語教育戦略の構想のようなものはありますか?
春名:実は、日本語教育は当大学の看板なんです。名前こそ「東京外国語大学」ですが、ここで一番強い勢力は日本語。常勤の教員数も、日本語が一番多い。大学全体で20人以上在籍しています。多くの留学生を受け入れてきましたからね。それに対する日本語教育の規模も大きくなっていっているというわけです。
2年前にはオンライン日本語教育センター(現・次世代日本語教育DXセンター)を立ち上げ、この取り組みを海外にも広げていこうと動いています。また、さまざまな文脈の中で日本語を教えられる人材を育成すべく、昨年から国の認定基準に基づいた日本語教師養成プログラムも開始。これとともに、日本語教師の需要がある海外の大学に、当大学の大学院生をインターンとして派遣するというプログラムもあります。そこで日本語を教えるというわけですね。オランダのライデン大学や、この秋からはトルコの国立大学であるボアジチ大学でも始めます。
こうした形で、日本語戦略はかなり積極的に行なっています。話は戻りますが、これが副学長時代の一番の仕事だったかもしれないですね。私は国際教育を担当していたのですが、これって半分は日本語教育なんです。
--外国人を対象にした日本語教育の効果を高めるための研究も行われているのでしょうか。
春名:はい。日本語専任の教員は研究者でもあるので、そういったことは常に考えています。あと、効果に関して言うと、ある時点までは経験値に基づいたものを共有していればいいけれど、例えばオンラインで大きく広げていくとなると、数値で示す必要がでてきます。ちょうど、この4月からは日本語教育の評価を専門にした教員が着任しました。
--今後は、効果を数値化していくということですね。
春名:そうですね。日本語教育の効果はミクロなレベル、つまり「学生の能力がどれだけ伸びたか」というような形で評価されるべきものだと思っています。その知見は、教育現場で生かされるはずです。ただ、こういった数値が大学の戦略にまで入ってくるかどうかは未知数ですけれどね。
--余談になってしまうのですが、私は東京外国語大学出身で、当時は北区西ヶ原キャンパス(2000年、府中市に移転)に通っていたのですが、その男子トイレに「将来完璧な翻訳機が作られたら、外大生の地位は地に落ちやせんか」と書いてあったんです。今、まさにその時代が来ているわけですが、言語教育とAIの関係性で何かお考えはありますか?
春名:今後は、AIがあるというのが前提でしょうね。その上で、どのように人としてのスキルアップを図っていくのか、あるいは、その人の成果を評価していくのかという点が課題だと思います。学生たちがレポートなどをこなすために様々な「道具」を使っているのは間違いない。そこに対して、教員側のアップデートは求められるでしょう。
一方で、翻訳など言語に関連する場面でAIが多用されているならば、当大学にはとって大きなチャンスでもあるんです。開発に関わるということもできると思っています。例えば、イタリア語の教員が、ChatGPTにおけるイタリア語と日本語の翻訳に関して検証したのですが、現時点での出来はあまりよくないようです。
--イタリア語では、データ量が圧倒的に少ないですからね。
春名:未完な部分があるからこそ、東京外国語大学の出番なんです。言語の専門家がたくさんいるわけですから。今はルートがないので抽象的なことしか言えませんが、やはり、そのチャンスは生かしていくべきだと思っています。
