
上智大学 杉村 美紀学長インタビュー[後編]
社会的弱者の支援も大学の役割であるーーー交差する「教育の未来」と「ミッション」【独自記事】
真の国際教育を真摯に追い求める上智のスピリット

■ 嘘のような本当の話
--先生が学長に決まった時のお話を教えてください。
杉村:学長になるというプレスリリースが出た2024年9月30日当日、私はユネスコチェアの会議のために、エチオピアのアジスアベバ(エチオピアの首都)に滞在中でした。コーランを唱える夜明け前のアジャーンが聞こえる中、朝早くメールチェックをしていると、東京から「学長に決まったので、返事をするように」との連絡がありました。嘘のような本当の話ですが、次期学長に正式に決定したのを、その時初めて知りました。
--学長へのインタビューシリーズをやっていて、推薦いただく学長の中には女性の学長先生も多いのですが、皆さんすごく明るくてバイタリティがあって、人を惹きつける、人が集まってくるというのがわかります。まさに杉村先生が「台風の目」と言われるように、こうして日本も少しずつ変わっていくような予感がします。
杉村:今回新たに就任する新副学長は5人おり、このうち2人は女性です。したがって、私ども6人の執行部は3人女性、3人男性で動くことになります。そして、上智は、職員の女性比率も比較的高いのが特徴です。
--設立母体のイエズス会やカトリック教会の考えはどのようなものでしょうか。
杉村:キリスト教ヒューマニズムに基づき、「他者のために他者とともに(For Others, With Others)」というのが本学の教育精神です。そして、人間の尊厳を重視するとともに、それを阻害する課題、すなわち貧困、平和、環境、倫理ということにどのように取り組むかをミッションの柱としています。
--トランプ氏が再選されて、本当に先行きが分からない時代になりました。そんな中で、ぶれない精神的な支柱を前向きに向けておくというのは大事なことですね。
杉村:そうですね。先行き不透明でも進まないわけにはいきません。大学こそ夢を育てられるところであり続けるべきだと思います。学生たちは夢を持ち期待して大学に入ってきてくれていますので、学生と一緒に何か成し遂げられたらと考えています。
いままで申し上げてきたような構想はどれも、上智大学のミッションと結びついて考えられてきたものです。外部から借りてきたアイディアではなく、内側にある明確なミッションを実行していく。この軸がぶれることがないように、これまでも、またこれからもそうありたいと思います。
■ 全世界に広がる「ソフィア会」のネットワーク
--上智大学だと国際的に活躍される方もいますし、国内でも有名な卒業生がたくさんいらっしゃいます。同窓生の組織のようなものはあるのでしょうか?
杉村:ソフィア会と言って、学内に事務所もあり、今は、世界の60余りの都市にあります。同窓生には、語学が強い方が多く、たとえば、ある時期は、ロシア連邦にある日本の在外公館の公館長がすべて上智大学のロシア語学科の出身者だったことがあります。
私がグローバル化推進担当副学長をしていた時にも、出張先の世界のいろいろな国で卒業生に出会うことが多くありました。例えば、企業の駐在員として海外に赴任されている方とか、国際NPOで活躍している方などです。しかも皆さん、共通しているのは、最初は上智の卒業生だとおっしゃらないのですが、帰る頃になってようやく、「実は卒業生です」とぽろっとおっしゃるんです。ここには、控えめながら、人をしっかりと支える仕事をするのが大好きな上智大生のカラーがよく表れていると思います。私はそういう仕事の仕方がとても好きです。また海外に行っている在校生を卒業生が支援してくれていることもあります。たとえば、東京から現地に行ったインターンシップ生を、現地在住のソフィア会の方がサポートしてくださり、お弁当まで作ってくださったという話を聞くと、上智は、卒業生のコミュニティにも支えられている大学であるとつくづく感じます。