佐賀大学 兒玉 浩明学長インタビュー[前編]
■連携に向けた課題と、さらなる大学間連携への展望
--「熊本大学とのリソース共有による『フルスペック機能』の維持」、「両大学の強みを活かしたカリキュラムに基づく高度な教員の養成」、「大学教員へのアクティブな環境の提供」。これらが共同教員養成課程をつくるメリットであり、目標・目指すべき効果とのこと、よくわかりました。
しかしながら、そこに至るまでには、少なからず課題もあるかと推察されます。例えばオンラインでの授業実施に関する課題など、現時点で先生が気にされていることはありますか。
コロナ禍を経て、誰もがオンライン授業に対しあまり抵抗感を持たなくなりました。共同教員養成課程を設置するうえで、それがプラスに働いたことは間違いありません。しかし、対面授業に比べると、さまざまな課題があることもまた事実です。
教員が一方的に講義するような座学の授業であれば特段問題はないのかもしれませんが、例えばアクティブラーニングを中心とする授業に関しては、オンライン授業が発達してきているとはいえ、限界があるように思います。この点については、これから教育学部の先生方が検討を進めていく中で、どの授業をオンラインで実施するのかということも含めて、克服してもらわねばならない課題です。
また、授業担当教員は両大学の学生を指導していくことになるため、必然的に指導する学生数が増えます。このこともまた課題となってくるのではないでしょうか。例えばオンラインでグループワークをさせたときに、各グループ、各学生の状況を教員がすべて把握するのは非常に大変です。オンライン授業を活用できるようになったことが、共同教員養成課程を設置する上でプラスに働いたことは確かですが、まだまだそこに課題は残っていると思います。
--そうすると、授業運営の工夫を含めた先生方のスキル向上をどのように図っていくかも重要なポイントになりそうですね。
先生方の教授力の向上、やはりその点は期待するところです。また、実験や実習科目については、必要であれば、手元を映すための高度なカメラなど、設備・技術的な準備も整えたいと考えています。
--先生方の教授力向上にあたっては、大学間連携を通した教員間の相互刺激の中での自発的な効果をねらっているのでしょうか。それとも、大学教員の研修の仕組みや教員同士が教え合う機会等を整備し、制度的に学び合いの機会をつくられるのでしょうか。現時点で何か構想をお持ちでしたら教えてください。
まずは自発的なものだと思います。共同教員養成課程を実施していく中で、多くの課題が発生するでしょう。その状況下で、今すぐに研修まで制度化してしまうと、先生方に多大な負担を掛けることになります。研修などを制度化するのであれば、実際に共同教員養成課程を実施してみて、さまざまな課題が見えてきたところで検討するのが良いのではないでしょうか。
--そうですよね。むしろ環境が変わるとなれば、先生方も自発的かつ創発的にアイデアを出されるでしょうから、自然と指導力や研究力が向上していくように思いました。
それを期待しています。
--他にも何か現時点で課題を感じていらっしゃることはありますか。
教務情報の管理も課題の一つです。先ほども申し上げたとおり、両大学の学生を指導していくことになるため、例えば成績について、評価基準はもちろん、成績管理の仕組みをきちんと整備しなければなりません。
当然ながら、両大学は別々の教務システムで動いています。それを連結するのは非常に困難です。そのため、両大学の事務職員がしっかりと連携を取ることが求められます。
このことに関して、本学の教務課は学部ごとに分かれてはおらず、一元管理となっているため、このノウハウを活用すれば課題を解決できるのではないかと期待しています。
--他大学の模範となり得るような教務情報の管理システムがつくられると、教務事務の全国的な標準化はもちろん、さらなる大学間連携の可能性が生まれてくるようにも感じました。これに関連して、貴学では教育学部以外でも、他大学との連携に向けたアイデアをお持ちでしょうか。
教育学部における連携の大きな目的は、「フルスペック機能」を維持することでしたが、他学部での連携となると、その目的は大きく変わってきます。例えば理工学部で言えば、専門がどんどん細分化し、 常に新しい分野を求めていかねばならないという意味で、大学間連携は、今後間違いなく必要になってくるでしょう。
そして、その連携の形はますます多様化していくことが予想されます。本学としても、連携することで教育効果がもっと上がる、本学の研究力がもっと向上するようなリソースを持つ大学と、新しい連携を取っていきたいです。
ちなみに、現在九州地区では11の国立大学が連携し、「九州学」という1つの授業をつくっています。特定の分野について、各大学のエース級の教員が九州各県・各地域の特色を活かした講義を行ない、その魅力について、学生に多角的な学修を促すことをねらいとした授業です。これがおっしゃられた「さらなる大学間連携」の第一歩と言えるのかもしれません。