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  • 国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[後編]

「入学して良かった」と思える大学を目指して

理想の大学とは、端的に言えば、学生に「入学して良かった」と思ってもらえる大学です。この一言に尽きます。入学したことで自分の成長が実感でき、「この大学を選んで良かった」と思ってもらえたとしたら、それは本当に素晴らしいことです。だから私は、1年生の3学部合同合宿の際、学生に向けて「入学して良かったと思える大学にするのが、私の目標です」とはっきり伝えました。

そして、言ったからには当然実行する必要があります。具体的には、これまでにお話してきたようなことを大学組織全体で進めていき、学生たちに成長の機会を提供します。加えて、落ちこぼれることがないよう、きちんとセーフティネットを構築します。この2つの施策により、学生の成長を促したいです。

当然、教員の意識も変えていかなければなりません。しかし、教員にも自身の受けてきた教育があります。そのため、どうしてもその一世代前の教育観を持ったまま、今の学生の指導にあたってしまうのです。これはもはや仕方のないことだと思います。

けれども先生方には、一度立ち止まって、「自分が成長してきた過程にあるのはどのような教育であったのか」、「自分が現在のキャリアにいるきっかけとなった教育はどのようなものであったのか」を見つめ直していただきたいのです。それはきっと、高校までに受けてきたような知識偏重型の教育ではないと思います。大学時代に何かにチャレンジした、留学をした、専門課程でトレーニングを積む中で気づきを得た……、そうしたさまざまな経験を通して、自分を育んできたその先に、現在のキャリアがあるのではないでしょうか。だから今度はそれを、目の前の学生たちに還元していただきたいと切に願います。

私自身の経験から申し上げても、強制的に勉強させられた内容については何も覚えていません。大学時代の座学で、「1ページから最後のページまで読むように」と言われて読んだ教科書や無理やり読まされた分厚い洋書の内容、国家試験に向けてひたすらやった勉強でさえ、ある瞬間からはサーッと忘れていきました。けれども、自ら積極的に掴みにいった知識は、確かに己の血肉となっています。

知識というのものは、自ら掴みに行くことで初めて自分の身になっていくものです。そうした経験を経ない知識にはほとんど意味がありません。

国家試験や入試で要求されるような知識が重要でないと言っているのではありません。けれども、その後の人生を考えたとき、そうしたものに重きを置きすぎると、自分のやりたいことを見失ってしまう危険性があります。だから私としては、そこはほどほどにして、学生には「自分が目指すべきゴールはどこなのか」という“生きた将来像”を意識してもらいたいのです。


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