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関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[前編]

前編エピローグ:基礎研究の成果が社会実装に結びつくまで

正確に言えば、現在研究されているすべてが、将来の臨床につながるわけではありません。本当につながっていくのは、良くてそのうちの1割程度だと思います。しかし、その1割がブレイクスルーとなり、医学が大きく進展することもあるのです。

例えば、私は抗体の研究からスタートしましたが、抗体医薬が将来できるなんて考えもしませんでした。ただ純粋に、抗体産生を促すサイトカインの同定や、抗体がどのようにして作られるかという遺伝子的な機序について研究するのが、とてつもなく面白かったんです。人間の身体の中にこうした能力があることを知るのが本当に楽しくて。「これを解明して応用につなげたい」という考えなど抜きに、これだけで一生勉強できるくらいに面白いです。

ちなみに、私の大学院指導をしてくださった本庶佑先生は、――ノーベル医学・生理学賞を受賞されたのは、また別の分野でしたが――、「クラススイッチ」と呼ばれるさまざまな抗体のクラスがどのように作られていくのか、抗体の特異性を高める突然変異がどうやって生じるのか等、抗体医薬の分野でも大きな業績を上げられました。

こうした仕組みが分かってくると、抗体医薬がさまざまな応用につながることも分かってきます。しかし、そのことが明らかになったのは、実はここ10年くらいの話です。この10年くらいでようやく、抗体医薬が役に立つと分かってきました。それまでの20年近い基礎研究が、良き社会実装として実を結び始めたのです。

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関西医科大学 木梨 達雄 学長

プロフィール
山口大学医学部医学科卒業、京都大学大学院医学研究科 博士課程修了。
免疫学・分子生物学を専門とする医師、医学博士。日本免疫学会評議員。日本分子生物学会員。

京都大学、東京大学で助手として勤務したのち、1999年より教授として京都大学で教鞭を執る。2006年に関西医科大学に着任、2016年、研究担当副学長、2023年に同学学長に就任。

これまでに100本以上の英文論文を発表し、現在も研究担当副学長を兼務し精力的に研究支援活動をおこなっている。
科学技術振興機構 CREST「接着制御シグナルの破綻と自己免疫疾患」、厚生労働省「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究」等にも参加していた。
2005年、第8回日本免疫学会賞受賞。


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