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フェリス女学院大学 小檜山 ルイ学長インタビュー[前編]

ほんとうの専門性を身につけるのは大学院から

小檜山:そう思いますね。大卒一括採用のシステム自体も同じような発想で出来ています。こういったシステムは、今までは効率が良い仕組みであったかもしれないけれども、いまや時代遅れですね。実際に同じ企業に3年以上勤めている人は少なくなり、新卒で勤めてもすぐ辞めてしまうのが実情です。

そのようになってきている中で、大学院教育を受けた人を企業でも積極的に採って、彼らの持っている能力をもっと使っていったらいいのにと思います。最近では、修士までなら企業が採るようになっていて、昔よりは良くなっていると思いますけれども、博士号はやはり難しい。博士まで行ってしまうと、日本の場合はほとんど大学業界で働くしかない。

私の経験で言うと、博士号を取って初めて自分でクリエイティブな研究の土俵に乗ったという感覚を持ちました。その意味で、博士号を取るまでは未熟な学徒です。博士号を取って初めて、資料というのがどこにあり、どういうふうに批評して、読むものであり、どうやって自分でまとめていくものであるのかっていうのが分かりました。そして、プロフェッショナルとして生きていくという自覚も生まれました。そういった人全員が大学の教員になれたらいいのですが、そうとは限らないという状況で、もう少し幅広くこのような知見を持った人を任用できるような社会システムがあったらいいのにと思います。

実は、先日、外部評価委員の仕事で某国立大学に行ってまいりました。その時、昨年の集中講義で教えたその大学の大学院生たちが私に会いに来てくれたのですが、彼らとの話が印象的でした。彼らは非常に能力を持っているにもかかわらず、就職に大きな不安を抱いていました。一流の国立大学の大学院生でもそうなのです。

その国立大の学士課程の学生たちの多くは、大学院に進学せずに就職します。一方、大学院生は外部からの入学者が多く、また女性が多いです。今、大学院の進学は簡単になっているとも言われますけれど、内部からの進学者が少なく、外部からの受験者が多いという意味で簡単と言われていることもあるでしょう。

なぜそうなったかというと、要するに、その一流大学の学士課程4年間の学びがブランドになっていて、4年間で卒業した方が、職を見つけやすいと思われているからです。他方、大学院には、もう少し勉強するために進学したいとか、思ったような就職ができなかったから大学院に行きたいとか、そういう人たちが他大からもたくさん入ってくるわけです。そこでトレーニングをして、苦労して博士号を取る。

そうやって努力して深い知見を身に着けた人に、就職口がないというのは、あちこちで起こっている現象かもしれない。どうすべきか社会全体で考えなくてはいけませんよね。

【前編終わり】

【後編はこちら】リンク


小檜山ルイ フェリス女学院大学学長 プロフィール:

1957年神奈川県生まれ。フェリス女学院中学校・高等学校、国際基督教大学教養学部卒業。ミネソタ大学大学院アメリカ研究プログラム修士課程修了。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士課程修了。東京女子大学現代教養学部国際社会学科国際関係専攻教授等を経て、現職。学術博士。博士論文「米国婦人宣教師・来日の背景とその影響 : 明治初期における日米文化交渉の一系譜」。1993年女性史青山なを賞受賞。1994年キリスト教史学会学術奨励賞受賞。2008年ジェンダー史学会代表理事。2010年日本アメリカ史学会代表。2012年日本アメリカ学会副会長。2018年キリスト教史学会理事長。2019年日本アメリカ史学会編集代表。2020年アメリカ学会中原伸之賞受賞。

主な著作:

・『明治の「新しい女」』勁草書房、2023年
  [紹介記事] 『明治の「新しい女」: 佐々城豊寿と娘・信子』小檜山 ルイ 著 (勁草書房) – KEIHER Online.
・『帝国の福音』東京大学出版会、2019年(中原伸之賞受賞)
・ Christianity and the Modern Woman in East Asia 共著, Brill, 2018年
・『アメリカ・ジェンダー史研究入門』共編著、青木書店、2010年
・Competing Kingdoms: Women, Mission, Nation, and the AmericanProtestant Empire, 1812-1960 共著, Duke Univ. Press, 2010年
・『アメリカ婦人宣教師』東京大学出版会、1992年(女性史青山なお賞、キリスト教史学会学術奨励賞受賞) 


■フェリス女学院大学が2025年4月グローバル教養学部(仮称)を 開設(設置構想中)–高度化するキャリア志向に対応–
 https://www.ferris.ac.jp/news/2023/09/1534.html
■公式Webサイト https://www.ferris.ac.jp/
■公式Instagram   https://www.instagram.com/ferrisuniv/
 (学生広報スタッフの協力を得てキャンパスライフを紹介しています)
■フェリス女学院中学校・高等学校 https://www.ferris.ed.jp/


インタビュー:原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・記事:阿部千尋(KEIアドバンス コンサルタント)

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