大学入学者選抜の変更における2年前予告を考える(後編)

7 入学志願者の保護のために

最後に入学志願者保護のために大学が取り組むべきことについて述べておきたい。

18歳人口が減少期に突入し,その中で志願者数を増やし,定員充足を行うことに大学は腐心しているせいか,ここまで述べた2年前予告のルールはおろか大学入学者選抜実施要項のルールでさえも守らない一部の大学が存在するなど,放任と言われても仕方のない状況が続いている。現行においては,実施要項を守らない大学に対しての罰則やペナルティなどは存在していない。大学入学者選抜の倫理的側面は,教育機関である以上守るのは当然のことである。入学志願者保護のため,このような時代だからこそ,大学入学者選抜に関する倫理的側面を今一度徹底するべき時期に来ていると言える。

昨今では大学入学者選抜に関する専門団体が設立されるようになったが,これらの意識向上を図る観点から言えば歓迎すべき動きである。国公私立を越えた大学間の実務者レベルで大学入学者選抜に関する倫理の徹底,場合によっては必要なルールの整備を行うなど,多角的な検討が必要な時期に来たのかもしれない。

そのためには,国からの積極的な財政面のサポートとイニシアチブを担う機能の設置検討が必要である。入試制度は時代の変化が進むと,制度疲労を起こし,それに伴って変えていかなければならない側面がある。このような場面において,他大学の出方を待つのではなく,大学間で本音の情報交流や共通理解をもつ機会がこれから欠かせなくなるものと考える。

大学入学者選抜が多様化している現在,わが国の高大接続システムの発展・深化には,大学が入学志願者の保護に務めることが大前提にある。このことを高等教育機関全体が重々理解した上で学生募集にあたることが求められる。


<著者プロフィール>:

植野 美彦(うえの よしひこ)

・徳島大学 高等教育研究センター 教授 (高等教育研究センターアドミッション部門長)
・専門分野:大学入学者選抜、高等教育
・現在、多面的総合的評価に繋がる入学者選抜と評価方法の構築、並びに入学試験における志願者動向の追跡などを中心に研究活動を行っている。その他、文部科学省先導的大学改革推進委託事業審査委員会委員をはじめ、社会活動においても積極的に取り組んでいる。

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