大学入学者選抜の変更における2年前予告を考える(後編)
徳島大学 高等教育研究センター 教授 植野 美彦(うえの よしひこ)
【前編より続き】
5 平時における入試変更の適切な予告の時期
前編では新課程入試など大きな変更を伴う2年前予告の適切な時期や,公表のレベルを検討した。後編では平時の変更,例えば現行の入試制度では思うように志願者が集まらない,あるいは入学者の質の問題などを理由とする入試変更の適切な予告時期を検討してみたい。
なお,適切な公表のレベルについては,平時の入試変更,あるいは新課程入試などの大きな入試変更を行う場合においても差がある訳ではないため,扱わないことにする。
大学の視座からすれば,これらを理由とする入試変更は,2年前予告を待たず速やかに入試変更を行い,改善に繋げるなどの考えをもつ大学があるかもしれない。現場にいる立場としてはその気持ちをよく理解している。しかし,大学入学者選抜を専門とする立場としては,前編で繰り返し述べている「入学志願者の保護」を念頭にどのような対応を行うことが適切かを優先して考えてもらう必要がある。
大学入学者選抜実施要項では,前編で述べた通り,2年程度前とあるものの,最終的な予告時期の判断は大学に委ねられている。ならば,大学側で自主的に運用ルールを整備するほかないだろう。運用ルールの整備において重要な留意事項としては,入試変更の公表にあたり,該当の受験者が高2時に予告を受けるケース(以下,高2時予告と言う),もしくは該当の受験者が高3時の入学者選抜公表時までに予告を受けるケース(以下,高3時予告と言う)のいずれになるか,である。
判断の分岐点としては,受験生にとって受験準備の負担が増える入試変更なのか,あるいは一部の受験生にとって不利益となってしまう入試変更なのか,これら2つであると私は考えている。
前者の例で言えば,これまで数学を選択科目として扱っていた学部が新たに数学を必須化する変更の場合などである。この場合,高3時予告では受験生の学習対策が追いつかないため,遅くとも高2時予告が適切な予告の時期と言える。
後者の例で言えば,理科の設定科目としてこれまで物理・化学・生物から2科目選択として扱っていた学部が物理・化学選択を指定する変更(生物選択不可)を行う場合などである。この場合,高3時予告では生物選択者が大きな不利益を被ることになるため,遅くとも高2時予告が適切な予告の時期と言える(本来であれば高1時予告が適切という見解もあるが,あくまで大学の視座に立って述べた。但し,高2時のできる限り早い時期の予告が適切なことは論を俟たない)。
私の勤務校では,これらの判断基準を明確化するため,入学者選抜に関する委員会で変更時の申合せ文書を制定し運用している。この文書では,高2時予告に該当する事項,高3時予告に該当する事項を整理している。さらに,入試変更に伴う不具合がないかどうか,その変更に適格性があるか,入試システムへの影響の有無,そして受験生や高等学校に対して説明責任をしっかり果たせる内容かなど,内部的なチェック機能とともに手続きフローをルール化している。また,予告の時期は,高等学校教員向けの説明会(概ね6月下旬が基本)や進学説明会等で詳しい案内ができるよう内部的なスケジュールを組み情報の提供と発信に努めている。