東工大 データ・ドリブンな教学改革とは何か
IR (Institutional Research) の新しい考え方と具体的な取り組みを公開
東京工業大学 企画本部所属 マネジメント教授 高松 邦彦
従来型のIRのアプローチ
――はじめに、IRが持つ役割について教えてください。
高松 IRには以下の3つのレベルがあると考えています。
① 構造化された組織的IR
② 個人レベルの独立したIR
③ 緩やかに繋がるチーム等による自由律的IR
①は、東京工業大学をはじめ、さまざまな大学が組織として設置しているIRです。
②は、たとえば大学教員が自分の科目内で、研究レベルで行っているようなIRのことです。
③は、大学改革等が行われる際に、職員や教員、学生やステークホルダー、さらには、第三者等さまざまな人が集まって行うIRです。
大体は①のIRが注目されがちですが、私は②や③のIRも重要であると考えています。
――昨今、「IR疲れ」という言葉がよく聞かれます。IRの難しさというのは、どのような点から生まれてくるのでしょうか。
高松 一般的に言われているIRの難しさというのは、「仮説」の形成の難しさを指しているのではないかと考えています。
従来のほとんどの研究というのは、仮説駆動型(Hypothesis-driven)アプローチで行われてきました。まず仮説を立てて、その仮説を実験によって証明しようとします。私が研究していた分子細胞生物学の実験でも、常にポジティブな結果がでる実験(ポジティブコントロール)と、必ずネガティブな結果がでる実験(ネガティブコントロール)を行います。
皆さんの中にも、家庭用の新型コロナウイルス抗原検査キットを使用したことがある方がいらっしゃるかもしれません。キットには、コントロールラインとテストラインの2本の線があったと思います。コントロールラインが表示されなければ、テストラインの結果は無効となることに疑問を持った方もいるかも知れません。実際には、コントロールラインは、キット自体が正しく機能していることを確認するためのポジティブコントロールとして存在しています。ただし、キットの場合は、ネガティブコントロールは提供されないことになります。
話を戻しますが、このように実験が成功し、自分の仮説を支持するデータが得られれば仮説が証明されたことになります。しかし、逆に、自分の仮説を支持しない実験データが得られるときもあります。そうした場合には、これまでに知られていなかった新たな発見の可能性が生じます。このような場合には、得られた実験データを説明する新しい仮説を作りだす必要があります。これが、従来の一般的な仮説駆動型の研究フローです。