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河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[前編]

「特別な知識」に受験生は弱い傾向が見られる -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析③-

『地理総合』の範囲で最も正答率が低かったのは、第2問 問3、東三河地域の農業の変容に関して、作物別に今昔の収穫量を図示した資料等を見ながら、キャベツ・米・サツマイモの判定をする問題です。正答率は23.9%でした。

考え方としては、図ア・イ・ウの中で、日本人の主食であり、今も昔も安定的に生産されている「ア」が米。「ア」が米と決まれば、豊川用水開通後に収穫量が飛躍的に増加した「ウ」が、その栽培に水を要し、渥美半島を主産地の一つとするキャベツだと判定できる仕組みになっています。


本問の結果分析にあたりポイントとなるのは、各作物の判定に「特別な知識」が必要か否かです。米は、仮に地理を学んでいなくても、日本人の主食であることや安定的な生産、あるいは景観的観点といった「一般的な知識」を根拠に、正解にたどりつくことができます。一方、キャベツはそうではありません。キャベツの判定にあたっては、地理の勉強を通して身につけた「特別な知識」が必要となります。

キャベツは園芸農業の「近郊農業」および「輸送園芸」により栽培される作物で、主産地として群馬県や愛知県などが挙げられます(2023年収穫量:1位 群馬県、2位 愛知県、3位 千葉県、4位 茨城県)。本問を解くにあたっては、こうしたキャベツに関する「特別な知識」が重要となりますが、その知識の未定着が、本問の正答率の低さの原因として、一つ挙げられるのではないでしょうか。

ちなみに、この「愛知県の渥美半島がキャベツの主産地であること」も、先述の第1問 問2同様、中学校社会科で学習する内容です。このことに鑑みても、やはり2025年度共通テストでは、例年に比べて、基本的な知識の未定着による誤りが多かったように思います。中学時代のコロナ禍がどれほど影響しているのかは分かりませんが、「特別に覚えなければならない知識」が受験生の弱点となっていたのは確かでしょう。

渥美半島 田原市のキャベツ畑


コラム①:思考力を働かせて考えた結果の誤り?

なお、本問で多かった誤答は②です。米とキャベツを逆にしてしまったパターンで、マーク率は48.5%と、約半数の受験生が選択していました。

受験生と同じ間違い方をしたのですね。なぜ②を選んだのか教えていただけますか?

そう言われると、確かにそうですね。「都市へ出荷する輸送園芸で栽培されるキャベツの主産地が高冷地である」という「知識」が、誤りを誘った可能性があるということですか。

また、資料3では図のほかに、「聞き取り調査結果」として「豊川用水が1968年に開通したことで、栽培する作物が大きく変化した」という文も示されていますが、これも誤りを誘ったのでしょう。米の栽培には水が不可欠です。「豊川用水の開通により渥美半島に水が引かれ、米の生産量が爆発的に増えた」と考えたのだとしたら、「ウ」を米だと判断したのも理解できます。

そうすると、受験生も単なる知識不足で間違えたのではなく、文や図を見て、思考力を働かせて考えた結果、「間違ってしまった」のかもしれませんね。


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