河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[前編]

各大学の個別試験でみられた新課程への対応① -『歴史総合』-

予想されていたことですが、慶応義塾大学経済学部は、やはりしっかりと『歴史総合』を出題してきました。『歴史総合』からの出題は大問Ⅲで、世界史との共通問題になっていました(世界史では大問Ⅳ)。以前から慶応義塾大学経済学部の入試は、全国的に見ても非常に凝った問題を出題してくることで知られており、グラフや史料を多用してくる傾向があります。本問でも各種資料を用いたとても意欲的な作問がなされていました。決して難しい問題ではありません。けれども、工夫を凝らしつつ、しっかりと『歴史総合』を組み込んできた点で、「さすが慶應経済」と思いました。

問16、17ともに論述式の問題ですが、正しくグラフの読み取りができれば、ある程度対応できる問題になっています。つまり、「知識」がなくともアプローチ可能な問題になっているということです。『歴史総合』を日本史・世界史の共通問題として出題する場合、どちらかの科目寄りの知識が必要となると、必然的にもう一方の科目選択者が不利になります。それは共通問題として良くありません。もちろん、『歴史総合』をしっかりと勉強していれば良い、ということではありますが、受験生にとって、それはかなりハードです。授業時間としても週に2回、しかも1年次に学ぶ科目ですから、受験前の学び直しが必須となります。

その意味でも、グラフ読解の形式をとっている点で、両科目間のバランスが保たれていると感じました。このような作りであれば、日本史・世界史の選択を問わず解答が可能なため、受験生の負担感も少ないと思います。こうした資料の読み取りを軸とする問題、あるいは大きな時代観を問うような問題などが、『歴史総合』の問題の作り方としては理想的なのではないでしょうか。

話を聞くことができたのは一名ほどですが、『歴史総合』がしっかりと出題されたことに、それほど驚きはしなかったそうです。我々も授業で再三「慶應の経済は『歴史総合』を出題してくるよ!」と指導をしてきましたから、本人も準備ができていたのでしょう。また、グラフや資料を多用してくるのも、同学部の「得意技」です。志望度の高い受験生にしてみれば、十分に対策ができていた内容だったと思います。

なお、「日本史・世界史の共通問題」は、我々指導者にとっては非常に大きなトピックスですが、受験生にしてみれば、共通問題であろうとなかろうと、試験であることに変わりはありません。これまでの慶應・経済の問題の凝り様からしても、予想の範囲内だったと思います。

河合塾|大学入試解答速報|慶應義塾大学 経済学部


大変驚きました。正直なところ、国公立大学の二次試験で、日本史・世界史の共通問題が出題されるとは思っていなかったのです。入試分析会議の場でも、最初は「『歴史総合』が出題されたね」程度のリアクションで進めていたため、共通問題だと知った時には皆仰天しました。2025年度入試における最大のトピックスと言っても過言ではないでしょう。

しかも設問文に「漫画の人物たちのセリフも参考にしながら」という文言があり、セリフの要素も解答に組み込むことを求めています。セリフの意味も考えねばならない点で、単なる知識問題ではない、思考力も問われる新傾向の問題だと思いました。例年とても意欲的な作問を行う名古屋大学らしい出題だったと思います。本問以外でも、史料やグラフなどたくさんの資料が、全体にわたって用いられていました。

字数を書くことを考えると、やはり世界史選択者の方が比較的有利だと思います。特に旧課程生は苦戦したことでしょう。彼らには基本的に『歴史総合』の学習歴がありませんから。

名古屋大学 前期 | 大学入試解答速報(河合塾)
名古屋大学 受験生応援サイト|NU START GUIDE|試験問題および正解・解答例


小問レベルではありますが、立教大学でも『歴史総合』を意識した出題が見られました。2月9日実施大問Ⅱ B-3で、ジャポニスムの影響を受けた絵画を選ばせる問題が出題されています。正解はb(ゴッホ「タンギー爺さん」)とc(モネ「ラ・ジャポネーズ」)で、どちらも大変有名な絵画ですが、これらを日本史の入試問題で見たのは、私は初めてでした。「『歴史総合』を試験問題に取り入れよう」という作問者の意欲を感じます。

立教大学|2025年度一般入試

中央大学文学部でも、ネルーに関する資料問題が出題されていました。こちらも非常に珍しいケースです。日本史の試験において、ネルーを絡めた出題はこれまでほとんど見たことがありません。

このように、個別試験における新課程への対応の努力は、多くの大学から強く感じられました。ただし全体的には、2025年度はまだ様子見だったかな、という印象です。

そのため、次年度の入試がどうなるのかが、いっそう気になるところです。


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