
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[前編]
■ 共通テスト新科目『歴史総合,日本史探究』 結果分析② -『日本史探究』-
――共通テストにおいて、よく工夫されていた問題、あるいは問い方を工夫することでさらによくなった問題などがありましたら教えてください。
2025年度共通テスト『歴史総合,日本史探究』に関しては、「例年に比べて作りがやや粗かったかな」というのが正直な感想です。
例えば第2問 問4は、下線部ⓒ(中世の禅宗寺院で砂糖を用いた菓子が普及し始めた背景)に関して述べた文として最も適当なものを選ぶ問題ですが、選択肢①~④に書かれている内容は、いずれも下線部ⓒに直接関わるようなものではありません。下線部と選択肢の関係が非常に曖昧なのです。
簡単に解説すると、下線部ⓒに「中世」と時期の指定があることから、①は江戸時代の内容のため不適。同様に③も奈良時代の内容であるため不適(おそらく鑑真のことを述べている)。ここまでは時期の違いで正誤の判断ができます。
しかし、問題はここからです。②の日宋貿易も、④の五山の僧による中国との外交も、教科書ではどちらも中世に区分されます。よって、時期による判断は不可能です。このような場合、判断の基準となるのは、本来下線部との関連性ですが、本問ではその点が非常に曖昧になっています。下線部ⓒはあくまでも、「菓子が普及し始めた背景」です。大輪田泊の修築や、五山の僧が中国との外交に携わっていたこととは直接関係がありません。
本問の正解は④です。おそらく、出題側としては「禅宗文化」という枠組みを想定したのでしょうけれども、問題の作りとして、②を積極的に排除できる根拠に乏しいと思います。事実、本問の正答率はかなり低く、誤文の②を選んだ受験生も相当数に上りました(マーク率:②36.7%、④正答39.2%)。受験生が変に迷わされた問題であったと考えられます。下線部と選択肢を直接結びつけるのではなく、例えば「下線部ⓒに関連して、同時期の対外情勢について述べた文として最も適当なものを選べ」のような設問文にしていれば、受験生は素直に④を選ぶことができたのではないでしょうか。
同様に、問題の作りにやや粗さを感じたのが、第6問 問5です。長谷川町子の漫画「意地悪ばあさん」を読んだ二人がそれぞれ抱いた疑問を調べるための方法として、最も適当なものの組合せを選ぶ問題です。その疑問の一つに、「資料3で、長谷川町子が松本清張を登場させたのはなぜだろうか」というものが設定されています。
本問が松本清張の主張を考えるという点で、探究的な学びを意識していることは理解できます。しかしながら、果たしてこの疑問は、「日本史の入試」として適当でしょうか。松本清張の主張などをきちんと示した上でならばともかく、現行の設問では「歴史的な思考力」を問うものにはなっていないと思います。
正誤の判定自体は、当時の主要な政治課題は規制緩和・構造改革ではないという点で、「Y」の文を排除できます。けれども、結局消去法で解くのであれば、このような設定にする必要があったのかと、それこそ疑問に思わざるを得ません。
出題側が「探究的な問題をつくろう」と苦心されていることは、共通テスト全体からたいへんよく伝わっています。しかし本問のように、少しベクトルがずれてしまうことも時々あるようです。
――ちなみに第6問 問5の正答率はどの程度だったのでしょうか。
34.2%です。決して良い結果とは言えません。先述の「長谷川町子が漫画に松本清張を登場させた理由」の調べ方の判断を誤って①を選んだ人が、正答の②を選んだ人よりも多くいました(マーク率:①46.4%、②正答34.2%)。



 
							 
							 
							 
							 
							 
							