河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[前編]

共通テスト新科目『歴史総合,世界史探究』結果分析-『世界史探究』

それがどちらも同じ問題です。第3問 問7。非常に複雑な問題です。良問であると同時に、非常に惜しい点があります。

本問は、考古学的な調査を行ったスタインという人物の、「中央ユーラシアにおける調査実施の許可に関わって残された現地政府の公文書の抜粋(資料4)から読み取れる事柄あ・いと、資料4が書かれた時期の政治的背景に関して述べた文X~Z」の組合せとして最も適切なものを選ぶ問題です。

資料4から読み取れる事柄の判定は、非常によくできていました。正解は「い」ですが、誤りの「あ」を選んだ受験生は全体の6%程度に過ぎず、このことから、資料の読み取りはほとんどの受験生が正しくできていたと分かります。

けれども、「資料4が書かれた時期の政治的背景」を判定するところで見事に三分しました。ここでもやはり、時期が判定のポイントになっています。

時期の判定にあたっては、資料4より、スタインが初めて中国にやって来たのは「8か国連合軍が都を占領した時」、すなわち義和団戦争中の1900~1901年だと分かります。また、彼の調査は「今日までの30年にわたる」という記述から、資料4が書かれたのは1900~1901年の30年後、すなわち1930~1931年の間に決まります。つまり、1930~1931年の中国で資料4のような内容の公文書が書かれた政治的背景を選べば良いわけです。

Xの文の「明治維新に倣って、立憲制を目指した国制改革」は、変法運動あるいは光緒新政と呼ばれる清末の改革です。これは19世紀末から20世紀初頭の出来事で、時期としては義和団戦争の前後にあたります。よって不適。Yの「国家主導の下で、改革開放政策が進められていた」のは、文化大革命後の鄧小平の時代で、非常に直近の出来事です。よって、これも不適。

そうすると、必然的にZが正解となりますが、このZの文に惜しい点があります。Zは「全国の統一的支配の実現を目指して、北伐が進められていた」という文で、過去進行形で文が結ばれています。進行形は何かが行なわれている最中を述べるための表現です。しかし、北伐は1928年に完了しており、1930〜31年に「北伐が進められていた」わけではありません。したがって、Zも「資料4が書かれた時期の政治的背景」として、「正しい」とは言い難いのです。

けれども、本問で問われているのは「最も適当な組合せ」です。「最も適当な組合せ」となると、X、Yの文が示す時期が「資料4の書かれた時期の政治的背景」とは明らかに異なるため、消去法でZを選ぶことにはなります。しかしながら、北伐が「完了」し、民族意識が高まっているからこそ、資料4に見られるような意見が出てくるわけです。それに、歴史学習の視点に立って考えてみても、「何となくの時期が合っていればそれで良しとしてよいのか」と思います。せめて「北伐が“進められた”」、あるいは「北伐が“完了していた”」と過去形や完了形で結ばれていればと、非常に惜しまれます。

正答率も、本問が『歴史総合,世界史探究』で最も低い問題でした。しかも、正解の⑥よりも、④・⑤を選んだ受験生の方が多かったです(マーク率:④41.3%、⑤30.9%、⑥正答20.9%)。この結果が何に起因するのかは定かではありません。資料4の時期が分からなかった、X~Zの文が示す時期が分からなかった、あるいはZの文を読んで、「北伐は資料4の時期には完了している」と判断し、X・Yを選んだなど、さまざまな理由が考えられます。

けれども問題自体は、資料を読み、その資料が書かれた時期を自分で導き出し、さらにその時期の政治的背景を想起して正答にたどり着くという、かなり思考力が試されるとても良い問題です。だからこそ、正答となる文が史実と離れてしまっていたのが非常にもったいなかった。「良問だけど惜しかった」というのはそういうことです。


第5問 問1の木簡に関する問題です。本問はメモ1の読み取りでほとんど解けますが、木簡の出土地である扶余の場所が百済か新羅を理解していないと正解できません。そのため、誤答として②を選んだ受験生が2割弱いました。地図が頭に入っていない証拠です(マーク率:①8.9%、②18.5%、③17.7%、④正答54.5%)。

なお、試験時間に関して言うと、センター試験時代は時間が余って仕方がなかったんです。最初の20分ほどで解き終わってしまって、見直しをしてもまだまだ時間があるというのが一般的でした。しかし、それが共通テストになり、内容的に非常にボリューミーになったことで、試験時間内に解答しきれない受験生が出てきています。

そうしたことを踏まえると、この第5問を解いているタイミングは、だんだん焦りが出始める時間帯です。そのため、落ち着いて問題をしっかり読むことができたかしら、と懸念されます。これだけの問題量と、資料等の読み取りの多さです。こなすだけでも相当大変ですからね。


ちなみに、本試験は試作問題と比較して若干サイズダウンしました。これは私の勝手な判断ですが、会話の分量が少し減ったように感じています。問題に関わらない部分がカットされ、必要最低限の会話になっていました。そのため、「会話」と言いつつも、1ターンほどで完結しているものもあります。そういった細かな部分で読み取りの負担を少しでも減らそうとしている様子から、出題側は問題の形式・内容ともに、さまざまに工夫をしてくださっていると感じます。

一方で、正答率の低かった問題が、ともに惜しい点を含むものであったのもまた事実です。チャレンジングな問題ゆえ解けていないのか、問題に引っ掛かりを覚えて解けなかったのか……。因果関係の有無は定かではありませんが、気になるところではありますね。

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