立命館大学デザイン・アート学部/デザイン・アート学研究科(仮称)インタビュー[前編]
■学部構想
Q:学部構想についても、大学院と同様のイメージでしょうか。
八重樫:そうですね。ただし、学部のほうは入学定員180名と、大学院より規模が大きいため、すべての学生が、将来、企業のリーダーになるわけでもなければ、デザイナーやアーティストになるわけでもありません。その点で、大学院よりも多様なパスを描く必要があると思っています。
しかしながら、我々が一番求めたいのは、「デザインの中心性をしっかりと再構築すること」です。現在の社会では、デザインが多様な分野に拡散する一方で、その中心性が失われつつあります。つまり、デザインの本来持つ社会的意義や目的が薄れ、私たちの生活文化の文脈を無視した単なる装飾や、機能性のみに特化したものにとどまることが多く見受けられるということです。この状況では、デザインの力を十分に発揮できず、社会的な課題解決や価値創造におけるデザイン本来の役割を果たしきれていません。
そこで、私たちは「アートの感性を基盤としたデザイン学」という統合的な視点から、社会にデザインの中心性を取り戻し、再構築することを目指しています。大学院生同様、学部生にもこの視点をもとに学びを深めてもらい、学位を得ることで、確かなデザイン能力をキャリアの核に据えてほしいです。そして、そのデザイン能力を基に、幅広い分野で活躍し、デザインが持つ本来の力を発揮して社会に貢献できる人材になってほしいと思います。
卒業生の中には、従来の企業の中で、あるいは個人で、デザインを生業とする人も出てくるでしょう。また現在、金融系やコンサル系の業種でも、デザイン職が増えてきており、この流れは今後加速していくことが予想されます。特にこのような分野では、デザイン能力が極めて重要視されており、今後、需要はますます高まっていくでしょう。こうした従来デザイナーとしては職がなかった領域や、従来のクリエイティブ部署以外の新たな領域で、自身のデザイン力を生かして仕事をしていくような人が増えていくことも期待しています。
Q:例えば貴学の新学部で学び、デザインのスキルや知識、学問としてのデザイン学を修得した学生が、従来クリエイティブ人材を必要とはしていなかった企業や部署で活躍していくことが新学部/研究科の将来構想だとすると、「アートの感性を基盤としたデザイン学」「学位を持ったデザイナー/アーティスト」というものに対する企業側の認知も、同時に広めていく必要があると感じました。この点に関して、企業、ひいては社会全体といった、学生を受け入れる側に向けたメッセージも構想、あるいは発信されているのでしょうか。
八重樫:ここで鍵となってくるのが、先達としての「学位を持ったデザイナー/アーティスト」たちの存在だと私は考えています。
「これまでもデザイナーやアーティストとして活躍されていた方が、なぜ今、改めて学位を取得する必要があるのか」
「なぜ『学位を持ったデザイナー/アーティスト』を輩出する必要があるのか」
このことと、彼ら/彼女らが今度は社会的な評価者となっていくこととの間には、大きな関係があります。
その関係とは、新学部/研究科を卒業し、デザイン力をコアとして未知なる課題に挑戦できる能力を持った人材を、より社会的な広いフィールドで雇い、活かすことができる人として、「学位を持ったデザイナー/アーティストたち」が先達として待っている、というものです。つまり、学部と大学院の同時開設は、一つの出口戦略にもつながっていると言うことができます。学部と大学院との間で、こうした関係をうまく構築していくことも、我々の目標の一つです。