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複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

【Ⅲ.学生の変化】Part.2「学生からの相談内容」-全国国公私立大学学長アンケート2024-2025 詳細分析-

設問Ⅲ-6 学生から相談される内容について

設問Ⅲ-6では、設問Ⅲ-4および5に記載の項目以外で学生に相談される内容を問うた。回答数は168件であったが、箇条書きで複数の相談内容が挙げられたものを個々に分けて集計すると、実質回答数としては全部で363件の回答が得られた。
→ 設問Ⅲ-6のすべての回答はリンク先から確認できます(google drive)

「学生の特性」に関する内容は123件寄せられた。これは本問における全回答数363件の33.9%にあたる。特に「発達障がいや合理的配慮」に関する相談を挙げた大学は65校に及び、本問の回答中最多であった。「発達障害・精神的なことに関する相談件数が約2倍程度になっている(2019年と2023年の比較)」と具体的なデータを根拠とする回答も見られている。ただし、「発達障がい」や「合理的配慮」の相談は急増したのではなく、高校までの教育、あるいは症状の社会的認知の拡がりによって、「顕在化した」という方が正しいのかもしれない。なお、本項目には「発達障がい・合理的的配慮」のほか、「自己理解(性格・生き方・価値観)」「ジェンダー」に関する相談、「容姿」「こだわりの強さ」に関する相談なども含まれる。

図43 「学生の特性」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)


次いで多かったのが、「健康・メンタル」に関する具体的な内容だ(62件,17.1%)。うつ、自傷行為、摂食障害、強迫性障害など具体的な精神疾患の症状や、気分の不安定、生活リズムの維持といった「心身不調」に関する内容(46件)のほか、「希死念慮」の訴えも比較的多くの大学で聞かれているようである(11件)。希死念慮については、「中学・高校時代から引き続いている場合が多い印象を受ける」との意見も見られた。また、これら以外にも、アルコールや市販薬、ゲーム、ギャンブルなど各種「依存」への相談も散見された。また、「主体性の持ち方」について相談されることもあるという。

図44 「健康・メンタル」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)


「人間関係」に係る相談(51件)は、前問における「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」のほか、ゼミやクラス、実習メンバーとの関係教員とのコミュニケーション友人ができないことへの悩み恋愛を含む異性との関係に関するもののほか、SNS等で知り合ったインターネット上での人間関係についての相談が見られた。また、高校以前のいじめ体験といった過去の出来事について相談されることもあるという。また、回答の中には、「対人関係のトラブル以前に、家族や友人に本音を話せず、嬉しい話題や趣味・趣向、人生の目標の話も含めて、いわゆる『他愛のない話』をしに来る学生も増えている。『好きなもの』『将来の目標』などを安易に周囲へ開示して、否定されることを恐れているように感じる」との意見も見られた。

図45 「人間関係」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)


学費・奨学金、経済的困窮や借金に関する「経済的相談」も41件寄せられている。

また、「学生生活」に関わる相談(33件)としては、留年・休学・復学等「学籍」に関するもの、「不登校」に関する相談、学生の住居での近隣トラブルなどのほか、サークル設立や学生自主プロジェクトの運営方法といった「課外活動」に関する前向きな相談も見られた。また、留学生からの相談も増加しているとのことである。

図46 「経済的相談」「学生生活」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)


「進路・就職」(13件)については、進学や就職に限らない将来全般に関する相談のほか、長期的なキャリア(入社以降)に関する相談もあるという。

「学業」に関連する具体的な相談(11件)としては、「留学に関する相談」「臨地実習・実務実習受け入れ先の指導者とのトラブル」「オンラインで受講の希望」「地域交流・地域連携の内容とアドバイス」「専門科目の学修のしかたがわからない」「研究室変更」などが挙げられた。

図47 「進路・就職」「学業関連」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)


「事件・事故」に係る相談も存在する。ストーカー詐欺被害、過去の虐待性被害の相談のほか、事件に係る学生への振り返りや、再犯防止に向けた心理教育的カウンセリングも実施している。このほか、宗教ギャンブル闇バイト悪質商法被害についての相談も挙げられた。

「家庭環境」に関する相談では、DVマルトリートメント体験と対人不安などが挙げられた。また、経済的な問題も含めて、かなり難しい複雑な家族関係についての相談は増えている印象があるという。

図48 「事故・事件への対応」「家庭環境」(設問Ⅲ-6 学生に相談される内容)

さらに、各種相談が増えている背景に関して、「精神的な疾患を持つ学生が増えている(もしくは訴える学生が増えている)。じっとしてられない、突然隣の人を殴りたくなる、満員電車に乗れないなどである。このような学生(教職員も多いが)への対応と、周りの人の理解をどのように得るかが大きな課題となっている」との意見もあった。このほか、「高校までの特別支援教育の推進や、令和6年4月1日からの私立大学における合理的配慮の提供の義務化により、授業や学生生活における配慮についての相談が増加している」との意見も寄せられている。


Part1「学生のメンタルヘルスと休退学」はこちら
Part3「現場の課題と各大学の取り組み」はこちら▶
★「Ⅲ.学生の変化(資料集)」へのリンク

集計・分析・執筆:山口夏奈(KEI大学経営総研 研究員)

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