オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

2025年度大学入学共通テスト「情報」の各都道府県の受験状況

さらに、教科ごとの都道府県間の受験率の差の絶対値の平均(%)を、「教科間の距離」として、教科間の傾向の類似度合いを図式化したのが下図です。
「地歴・公民」を中間に、『「外国語」「リスニング」「国語」』と『「理科」「数学① 」「理科」「数学②」「情報」』のグループに分けることができました。「外国語」と「リスニング」は、教科間の距離が0.46であり、都道府県の差がほとんど見られません。また「情報」は、「数学②」と近い関係(距離3.26)にあると見ることができます。


「情報」と「数学②」の受験率は同様の傾向にあり、全体的には「情報」は6教科の中で受験者数・受験率が最低ですが、都道府県ごとに見ると、下表のオレンジ色の網掛けをした26道県は、「数学②」より「情報」の受験者の方が多くなっています。一方、青色の網掛けの東京、神奈川、千葉、埼玉は受験生の人数が多く、この4都県の受験率が低いことに引っ張られて、「情報」の受験率が下がったと考えられます。


「情報」と「数学②」の相関、地域別の受験率の差を下図に示します。

「情報」と「数学②」の比較

「情報」の受験率が「数学②」より低い都府県


私たちは、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県で「情報」の受験率が低かった理由について下記の理由を考え、全高情研に参加された高校の情報科の先生方に意見を求めました。先生方からは、「ここに挙げた理由は、強弱はあるものの、全て当てはまるのではないか」という反応をいただきました。特に、教科指導のノウハウがなかったこと、新設の科目なので学校や塾の進路指導で積極的には勧められなかったことが大きく、これは公立高校・私立高校に関わりなく同傾向であったようです。


また、今回「情報」の受験率が低かった首都圏は、私立大学が多いため、私立大学を志望する受験生は、共通テスト利用型入試で課されることが少ない「情報」を受験しなかったことが考えられます。大学としては、入学までに情報技術を活用して問題を解決できる素養を身につけておいてほしいので、その力を入試で測ることは重要であると思います。そのためには、私立大学も一般入試や共通テスト利用方式の選択科目に「情報」を課すことが、入学者の資質の保証につながると考えます。
また、高校の進路指導においても、受験生に対して入試の有無にかかわらず情報の力を身に付けておくことが必要であることを伝えるべきであると思います。


電気通信大学 赤澤紀子 特任准教授

プロフィール:
電気通信大学大学院博士前期課程修了後、1997年日本電気(株)入社。
2015年電気通信大学大学院博士後期課程修了、博士(工学)。
電気通信大学特任助教を経て、2019年より現職。専門は情報教育。
情報処理学会コンピュータと教育研究会幹事、会誌編集委員(教育分野/EWG)、
論文誌「教育とコンピュータ」編集委員。2023年度山下記念研究賞受賞。
2025年度より情報処理学会教育担当理事。


Author:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)
編集:阿部 千尋(KEI大学経営総研 研究員)

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