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2025年度大学入学共通テスト「情報」の各都道府県の受験状況

共通教科「情報」は、2018年告示の学習指導要領により、2022年の高校1年生から、これまでの「社会と情報」「情報の科学」の2科目からの選択必履修から、「情報Ⅰ」の必履修と「情報Ⅱ」の選択履修になった。これに伴って、2025年1月実施の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)から出題教科・科目が再編され、「情報Ⅰ」が出題されることとなった。

これまで国立大学は、一般選抜において、第一次試験として共通テストの原則5教科7科目の受験を課してきたが、2022年1月に国立大学協会が、2025年度からは「情報」(※1)を加えた「6教科8科目」を原則とすることを決定した。
 ※1 以下、本文中の「情報」は、「情報Ⅰ」と、旧課程履修者向けの「旧情報」(2025年度のみ実施)を合わせたものを指す。

2025年1月実施の共通テストの「情報」の受験者は、「情報Ⅰ」「旧情報」合わせて約300,000人、教科選択率は65.5%であったが、実際は都道府県別の受験率には大きな偏りがあった。我々は、これまで高等学校の教科「情報」の実施状況について様々な調査研究を実施してきた、電気通信大学の赤澤紀子特任准教授のグループ(※2)の、全国高等学校情報教育研究会(以降:全高情研)第18回全国大会におけるポスター発表で、この実態についてお話をうかがった。以下は、赤澤氏のポスター発表である。
 ※2 電気通信大学 赤澤紀子氏、赤池英夫氏、角田博保氏、中山泰一氏

赤澤紀子 特任准教授


 私たちは、これまで大学進学率に着目した情報Ⅰの第1学年の開講率(※3)や、教科書需要数に基づいた情報科の教育の現状
(※4)について調査を行い、都道府県ごとに情報科の実施状況には特徴があることを示してきました。
 ※3「大学進学率に着目した情報科の開講率に関する一考察」
 ※4「教科書需要数に基づく高等学校情報科の教育状況調査」
今回私たちは、2025年の大学入学共通テストの受験状況における都道府県ごとの特徴を見るために、大学入試センターがプレス発表した各教科の志願者数・受験者数・受験率などをもとに、「情報」など各教科の都道府県受験状況を調査分析しました。今回使用したデータは、下記の通りです。


2025年2月6日報道発表の「令和7年度大学入学共通テスト 実施結果の概要」では、令和7年度の共通テストの全体の受験率(受験者数/志願者数×100)は93.3%でした。教科ごとの受験者数と受験率(本試験)を下図に示します。

さらに、志願者の受験科目数の割合は、下図の通りです。
大学によって指定の科目がある場合もありますが、国立大学では8科目以上の受験がほぼ必須条件であるため、272,142人が必要条件を満たすと考えられます。
文部科学省の2025年2月19日発表の「令和7年度国公立大学入学者選抜の確定志願状況及び2段階選抜実施状況(前期日程)について」によると、国立大学志願者数は延べ299,739人(前期178,611人、後期121,128人) です。重複出願もありますが、後期のみの出願者は非常に少ないと考えられるため、前期出願者数を国立大学志願者数と見なすことにします。
すると、8科目以上を受験して国立大学受験の必要条件を持つ人のうち、約90,000人は国立大学を受験していないことがわかります。

一方、「情報」は本試験・再試験・追試験で計302,493人が受験し、教科選択率(各教科受験者数/受験者数× 100)は65.5%でした。8科目以上の受験者を国立進学希望者と見ると、約30,000人は、国立大学進学希望者以外と見ることができます。つまり、「情報」を受験した人は、国立大学進学志向がより強い層であると考えられます。


「令和7年度大学入学共通テスト実施結果の概要」には、各教科の受験状況として、受験者数・教科選択率が示されていますが、都道府県ごとの各科目の受験状況は、共通テスト実施日当日にプレス発表されるのみで、大学入学センターのWeb ページには公開されません。そこで、私たちは大学入試センターにこのプレス発表の資料の開示請求を行ったところ、2023年、2024年、2025年の本試験当日のプレス発表資料(以降:プレス発表資料) の情報提供を受けることができました。

2025年のプレス発表資料に基いた「情報」の受験者数と受験率(試験当日受験者数/共通テスト志願者数)を下図に示します。宮崎、長崎、大分の各県の受験率が90%を超えるのに対して、東京、神奈川、千葉、埼玉は30%台と、県による差が大きいことがわかります。


次に、「情報」を含めたすべての教科の受験率と、都道府県別の受験率を下図に示します。外国語とリスニングは、ほぼすべての都道府県で90%以上と、大きな差はありませんが、「数学①」、「数学②」(※5)、理科は「情報」に類似して、東京、神奈川、千葉、埼玉の受験率が顕著に低くなっています。
 ※5 「数学①」→『数学Ⅰ、数学A』『数学Ⅰ』の2科目から1科目を選択解答
   「数学②」→『数学Ⅱ、数学B、数学C』 

 

東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県は大学入学率が高いので、文部科学省の学校基本調査(2024年12月18日公開)の「出身高校の所在地県別入学者数」から都道府県ごとの国立大学入学率(出身高校の所在地別国立進学者/大学進学者)を算出して、「情報」の受験率との相関を見ました。相関係数は0.87あり、国立大学への入学率が低い県では、「情報」の受験率も低くなっていると考えられます。


教科ごとに都道府県の受験率の特徴をまとめたのが下表です。前述の4都県は、「外国語」と「リスニング」以外は、いずれも他の道府県よりも受験率が低くなっています。


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