
大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討シンポジウム2025
プロジェクトの全体像およびEMIU情報模試2025春の結果
慶應義塾大学環境情報学部 植原 啓介教授

我々のプロジェクトの立て付けは、科研費の基盤Aの「大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討」(Evaluation Methods for Informatics Competence with a Focus on University Entrance Examinations :以下、EMIU)の研究です。2023年度から2027年度の5年間のプロジェクトですので、今年度がちょうど折り返しとなります。私が代表を務め、計12名の大学教員で活動しています。プロジェクトの活動につきましては、EMIUのサイトに掲載していますので、詳細はそちらをご覧ください。

■次代の情報入試に求められる評価軸の確立をめざす
研究の流れを下図に示しました。
先行研究として、2016年度から2018年度の文部科学省「大学入学者選抜改革推進委託事業」で、大阪大学と東京大学、情報処理学会で行った情報分野の研究があります。この研究では、「知識体系の確認と整理」として、ルーブリックや知識体系の評価軸を確認しています(※)。我々のプロジェクトでは、これをベースに実際に問題を作成して、それぞれの問題のスタイルにおいて評価手法を開発するとともに、その手法の限界について検討することになっています。
※1「思考力・判断力・表現力を評価する問題作成手順」

我々のプロジェクトで研究する問題のスタイルは3つあります。
1つ目は「典型的な問題」です。これは、従来の大学入試で出題されていた大問/中問形式の、いわゆる一般的な問題です。前述の知識体系に基づいて、記述式問題を想定した大問/中問による評価手法(作問方法)を開発するとともに、現在のPBT(Paper Based Testing)の限界、すなわち知識体系のどの部分が評価でき、どの部分が評価できないのかを調査します。
2つ目は、IRT(項目反応理論)を想定した多肢選択問題です。ここでは自動採点が可能な多肢選択問題の評価方法を検討します。多肢選択問題は、「知識」の部分しか問えないのではないか、と考えられる向きもありますが、この形式で思考力・判断力を問う作問手法を開発するとともに、知識体系においてどの部分が評価でき、どの部分ができないのかについても調査します。
3つ目が、CBT(Computer Based Testing)システムの開発です。CBTは、現在の共通テストでの実施は難しいですが、ここでは上記の2つの問題形式において限界とされる部分についての評価手法を中心に検討し、いわゆるPBTの置き換えではなく、コンピュータの機能を活用した「CBTならではの問題」の開発もめざします。
具体的には、OAT(Open Assessment Technology)社が開発した、世界標準のオープンソースCBTプラットフォームである「TAO(タオ)」をベースとして、評価システムの構築を行います。
加えて、開発した作問手法の妥当性確認をタスクとする「評価手法の妥当性の検証」グループがあります。ここでは、実際に高校生を対象とした模擬試験を実施することによって、先の3つの形式で開発した手法が、実際に受験者の能力を検証するのに役立つかどうか確認します。
■2回目の模擬試験「EMIU情報模試2025春」の概要
2025年11月現在で、この模擬試験を2回実施しており、現在3回目を実施中です。ここからは、2025年春に行った第2回の模試「EMIU情報模試2025春」に関して報告します。
我々のプロジェクトでは、作問マニュアルの作成、CBTシステムの開発、出題形態ごとの評価項目の可能性検証、ベストプラクティスなどのアウトプットを目指しています。第2回の模試では、これらの実現のために、評価手法の妥当性の検証、つまりこれらの手法で本当に能力を測ることができるか、ということの予備調査を行いました。IRTを想定した多肢選択問題と、従来の一般的な問題の得点の相関を取って、知識問題に偏りがちと言われる多肢選択問題が、思考力を測ることに役に立ちそうか、ということの検証も行いました。

「EMIU情報模試2025春」の設計です。
実施時間は50分で、TAOを活用したオンラインテスト(CBT)として実施しました。
出題範囲は、現行の「情報Ⅰ」の学習指導要領でいうところの「(2) コミュニケーションと情報デザイン」から『情報デザイン』、「(3)コンピュータとプログラミング」から『アルゴリズム』と『モデル化とシミュレーション』、「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」から『情報通信ネットワーク』『モデル化とシミュレーション』としました。

試験の実施期間は、2025年2月15日から4月30日です。もともとは3月31日までを予定していましたが、受験者を増やしたかったので、4月30日まで延長したため、年度の変わり目にかかってしまいました。
対象者は高校生ということにしていましたが、受験に際して学生証などを確認しているわけではないので、高校の先生や大学生が受験している可能性はあります。これについては、この模擬試験が慶應義塾大学SFC研究倫理委員会の承認を得て実施しているため、倫理的配慮の関係で個人確認を取るのが難しかった、という事情がありました。
模擬試験の広報・周知に関しては、EMIUのホームページやSNS、各種講演会などでの呼びかけで行いました。受験結果は、受験してくださった方に5月1日に通知しました。
問題セットは、全部で8種類作成しています。これは、全く違う問題を8種類ではなく、IRTを想定した多肢選択問題が2セット(Q1、Q2)、プログラミングの問題が2セット(P1、P2)、データ分析の問題(A1)と情報デザインの問題(D1)が1セットずつで、これを組み合わせて8セットという形です。
受験者には、複数の問題セットの中からランダムにひとつが割り当てられます。配点は、IRTを想定した多肢選択問題が30点、一般的な問題が20点×2問の40点で、合計70点です。受験者数は、255人でした。


