
文部科学省 今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次取りまとめを公表
文部科学省は7月14日、「今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次とりまとめ」を公表した。これは、同検討会におけるこれまでの議論を踏まえてまとめられたものである。
同検討会では、我が国の大学病院が抱える様々な課題とその対応方策、今後の医学教育・研究の在り方について広範な検討を行い、2023年9月に中間取りまとめ、2024年6月に第二次中間取りまとめを公表してきた。今回の第三次取りまとめは、主として2025年2月以降、医学部・大学病院における教育研究環境を確保し、大学病院の経営改善を図っていく方向で議論されてきたことの成果として、国や各大学が今後の医学教育・研究、大学病院の役割・機能の在り方を考える上で参考とすべき内容を取りまとめたものである。
現在、大学病院の経営は、物価や光熱水費の高騰、人件費の増加等により非常に厳しい状況にある。この状況は、今後さらなる悪化が見込まれており、このままでは大学病院の経営は破綻しかねない。また、大学病院の役割・機能として、診療だけでなく、教育や研究も欠かすことができないが、所在する地域の状況や医師の働き方改革等、大学病院を取り巻く様々な環境の変化によって、全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは非常に困難との指摘もある。
文部科学省が各大学病院の病院長と行った意見交換では、全ての大学病院が教育・研究・診療を担うことは重要と考えている一方で、全ての役割を一様に最大限に取り組むことには限界があり、地域の医療提供体制や各病院の財政状況、組織体制等に応じて、担うべき役割のエフォート配分を検討する必要があるとの意見が上がったという。このほか、各役割・機能に最低限必要な人材やエフォートを確保する方策や、誰がどの役割に特に重点的に取り組むかの調整、公平な人事評価の仕組みへの懸念も示された。
こうした議論・意見交換を踏まえ、今回の取りまとめでは、大学病院の持続可能な運営のためには、役割・機能を重点化することも考えられるとしたうえで、各役割・機能に関する課題を整理し、病院長等の指揮の下、組織的かつ主体的に重点化に取り組むことが望ましいとされた。
また、「大学病院の機能等別の課題と対応方策等」として、大学病院の抱える課題と対応方策が、「運営、財務・経営改革」「診療改革」「地域医療への貢献」「研究改革」「教育改革」の5つの観点で整理された。
このうち「研究改革」においては、課題の一つとして、今後、大学病院における医師の確保がこれまで以上に困難になることが挙げられている。5年生・6年生の医学生への調査によると、将来の大学院進学を希望する学生は4割程度で、その多くが専門研修終了後の進学を希望しており、専門医としてのキャリア形成を優先する傾向があるという。他方、大学院進学を希望しない理由としては、大学院や研究に魅力を感じない、経済的負担が大きい、学位取得の必要性を感じないといった理由が見られた。
この課題に対し、魅力が低迷している研究の観点でも、医師が大学病院での勤務に対して魅力を感じられるよう、研究の魅力に関する発信および研究環境の整備を行うことや、専門研修期間中においても博士課程への進学を両立できる臨床研究医コース研修プログラムの推進していくことの必要性が説かれている。
また、「教育改革」においては、卒前・卒後のシームレスな医師養成を円滑に行うために、診療参加型臨床実習によって医学生の医行為の修得率向上や、総合的な診療能力を有する医療人材の育成を促進することの必要性が示された。さらに、実習を指導する医師について、教育に専念できる方策を講じることのほか、教育業務が医師の負担とならないよう、教育に係る業務効率化を図る方策も求められている。加えて、リサーチマインドを持った医師養成の必要性や、我が国の研究力低下への懸念から、医師が大学院に進学しやすくなるような制度改正や環境整備にも取り組むべきとされた。
物価高騰や医療の高度化と働き方改革が進む中、医学部・大学病院が求められる使命・役割を実現するためには、大学への人材確保と病院経営の安定に向けた取組みが必須である。このため、各大学において、教育研究環境(人材や設備、研究時間等)の確保及び大学病院の経営改善(診療科毎の収入増と支出減)に取り組み、これを国が多様な財源により支援することが重要であるとされる。さらに、国においては、評価が難しい大学病院の教育・研究に関する取組について、社会的な価値がわかりやすくなるような適切な評価・説明・公表等を行うことも重要であるとされていた。


今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次取りまとめ
配布資料等は、下記リンク先にて確認することができる。
・文部科学省 今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次取りまとめについて
・文部科学省 今後の医学教育の在り方に関する検討会 第二次中間取りまとめについて(2024年6月)
・文部科学省 今後の医学教育の在り方に関する検討会 中間取りまとめについて(2023年9月)
Author:小松原潤子(KEIHER Online 編集委員)・山口夏奈(KEI大学経営総研 研究員)