
文部科学省 「2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」(第3回)を開催
「2040 年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」の第3回が、6月18日に開催された。
この検討会議は、2025年2月に中央教育審議会がまとめた「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」答申の方向性に基づき、私立大学を取り巻く環境の変化を見据えながら、私立大学の振興に向けて、期待される役割を明確化し、その役割を果たしていくための具体的な方策等に焦点を当てて検討するために設置されたものである。
第3回検討会議では、国際競争力の強化に向けた私立大学の役割や関係者との協働の在り方について、「国際競争力の向上に向けた私立大学の研究力強化」と「日本の産業を支える理工農系人材の育成」の大きく2つのテーマに分けて、現状報告と大学の事例報告、委員からのコメントが行われた。

文部科学省:2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議(第3回)
【資料1】国際的競争力の強化に向けた私立大学の研究力強化について
出席した委員からは、少子化や地域格差が拡大する中での大学運営の難しさや、支援の在り方に対する切実な意見が上がった。
地方私立大学の学長からは、「私立に理工系学部が少ないのには理由がある。理工農系は人文社会学系よりも必要な教員数が多くコストがかかる。また、設置しても継続して運営ができるかに不安があり、新たに手を出すのが難しい。そして何より重要なのは、『学生に還元される研究』がなされていることである」との発言があった。このほか、地域で必要とされる人材と「成長分野」とのミスマッチや、理工農系人材のニーズはあれども、その育成のための資金が不足している、との指摘が複数委員から聞かれた。
さらに、私立大学には建学の精神に則った様々な個性があるため、一律評価ではなく、多軸での評価が必要であることや、支援の在り方を「国立」「私立」という設置者別ではなく、その大学の果たす機能や分野で区別すべきではないか、との意見も出されていた。

文部科学省:2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議(第3回)
資料7「日本の産業を支える理工系人材の育成について」
「日本の産業を支える理工農系人材の育成」に関する現状報告では、国立大学は自然科学系の学生が多くを占める一方、私立大学は人文社会学系が約半数を占め、文系に偏る傾向があることが指摘された。
また、大学・高専機能強化支援事業(成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金)や、私立大学等経常費補助による重点支援(理工農系、研究支援等)の状況も報告されたが、委員からは、経常費補助による支援の在り方について、数億円単位となると経費の事務処理が非常に煩雑になるため、「広く・浅く」といったかたちの補助の方がありがたい、という声も上がっていた。他方、大規模支援を要する分野もあるため、「選択と集中」による支援が望ましいとの意見もあり、支援にあたってはその見極めが必要となる。
支援以外では、日本企業の大学へのアポの少なさも指摘された。産学連携は着実に進展しているものの、大学への国内企業からの資金拠出割合は、主要国に対して見劣りしている。また、大学に求めるものとして、日本の企業は「今」使えるかどうかを問うが、海外の企業は将来的な活用、すなわち「未来への可能性」について問うてくる傾向があるという。産官学金の連携においては、問題意識を共有することが重要となる。
また、私立大学の文系分野存続に対する懸念の声も聞かれた。市場に委ねると私立大学の文系分野は都市部にしか残らなくなり、地方私立文系は壊滅状態に陥ることが危惧される。理系人材の育成を考える際には、あわせて私立文系消滅のリスクについても考慮すべきであるとの主張であった。
配布資料等は、下記リンク先にて確認することができる。
・文部科学省:2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議(第3回)配付資料
・文部科学省:2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議
Author:小松原潤子(KEIHER Online 編集委員)・山口夏奈(KEI大学経営総研 研究員)