
『改訂版 日本の大学の国際化』テオ・シュローガル,矢内 秋生 (著)
『改訂版 日本の大学の国際化』テオ・シュローガル,矢内 秋生 (著)
日本の大学が固有性を取り戻し,欧米型の文明社会とは異なった「中核的」存在になるために
■本の内容
大学の国際化,グローバル人材が求められる時代と言われながら,一方で将来の受験生人口の減少に対して多過ぎる大学,つまり大学余りによる大学倒産,大学消滅が予想されている.
子供達が進学する10年,15年後に日本や世界の大学はどうなっているのか.これらに関心を抱く方々に,大学関係者の裏話も交えた本書が参考になれば幸いである.
「日本の大学の国際化」については,政府主導の大量の留学生受け入れから始まり,日本人学生の海外留学の推奨が計画された.しかし,新型コロナの流行や円安,日本の国力が衰退する中で雇用環境・労働市場の変化がここ数年のうちに進行してしまい,それらに大学も振り回された感があり,曖昧さと持続性のない漂流という表現すら当てはまりそうである.
実際の大学では国際化はどのように進められているのか.この点は,筆者の一人テオ・シュローガルの博士論文をもとに邦訳し,一般向けに編集した.「大型助成金の交付」を受けて国際的な高等教育市場で存在感を示そうとする最上位大学と典型的な中堅私立大学が大学の国際化に取り組むインタビュー調査からそれぞれの大学の「課題」や赤裸々な「本音」を紹介した.
日本政府の大学への政策は,「集中と選択」という掛け声で一握りの研究型大学を選び,多額の教育予算を投入し,海外大学ランキングの上位に名を連ねようとしている.その結果,描かれる高等教育の姿は,いくつかの生き残った研究型大学と多くの経営環境が悪化し,専門教育が痩せ細る大学,かろうじて生き残ろうとする大学でしかない.
現在進んでいる各国の大学の国際化は,新自由主義によるグローバリゼーションの潮流と無縁ではない,それは政治的なイデオロギーを超えた知識経済の自由貿易という潮流である.そこで取引されているものは,先端科学技術の成果や知財である.さらに実態としては高度な知識と専門性を備えた人材の奪い合いともいえる.この世界的な動きに,日本ばかりか,世界各国の大学が巻き込まれている.
現在起こっているこの動きには「中核」が存在する.そのように考えて本書では,世界システム論と文化的ヘゲモニーという二つの考え方を援用して考察を進めている.
日本の大学は英語圏の大学という中核から影響を受けている.これと同じようにヨーロッパ高等教育圏という中核のボローニャ・プロセスと呼ばれる「大学の国際化の推進」の現状を見ると,筆者の一人の母国であるクロアチアが学術文化のヘゲモニーの影響を受けてしまっている.この状況が日本の大学にとっても〝他山の石〟になる可能性に言及した.
現在のグローバリゼーションは各国の文化の多様性を失わせかねない.さらに文明社会の先行きすら予測不能になっている.このような不安定な将来が迫り来る現在,日本の伝統的な「知の探究精神」に一縷の希望を見出し,日本の大学が固有性を取り戻し,欧米型の文明社会とは異なった「中核的」存在になり得ると希望を託した.
■著者 Theo Šlogar (テオ・シュローガル):
ザグレブ大学人文社会学部卒業.在学時:武蔵野大学に交換留学(1年間)
ザグレブ大学人文社会学部 Master of Applied Linguistics:修士(応用言語学)
龍谷大学国際文化学部博士課程入学.在学時:英国カーディフ大学研究員
龍谷大学国際文化学部博士課程修了:博士(国際文化学)
主要論文:
Theo Šlogar (2025), ‘It’s a sales pitch!’: Ambiguities and contradictions in the internationalization of Japanese non-elite universities. Research in Comparative & International Education. First published online May22.
https://doi.org/10.1177/17454999251346249
現在:クロアチア共和国ザグレブ在住
現職:GTT(Gradec Translations & Tourist Guiding)代表 、フリー研究者(Japanese studies, higher education)、翻訳家 (Japanese, Italian, Croatian, Slovak & English)
■著者 矢内 秋生(Akio Yanai):
東京理科大学理学部物理学科卒業,同大学院修士課程修了:理学修士
同 博士課程退学
新潟大学大学院自然科学研究科:博士(学術)
目白学園女子短期大学教授を経て武蔵野女子大学短期大学部教授.
武蔵野大学人間関係学部環境学科教授.武蔵野大学環境学部長,同大学院環境学研究科; 研究科長等,歴任.
在職中:ザグレブ大学アンドレア・モホロビチッチ地球物理学研究所客員研究員.
ガイダンス教育研究会会員(代表:中村博幸,京都文教大学教授)
専門:環境文化論,自然哲学
現在:武蔵野大学名誉教授.
主な著作:
『アドリア海の風』(2019),単著,武蔵野大学出版会
『風と旅する地中海』(2020),共著者:Kobešćak, M. インプレス P&D 出版
『美しく失われる風景』(2021),単著 インプレス P&D 出版
『見聞世界の予兆と期待』(2023),単著 インプレス P&D 出版
【目次】
はじめに
Book Overview
Aknowledgements
Author’s Profiles
第1 章 「知」の交流
(1) 「知の拠点」の形成過程
(2) 大学の誕生
(3) 日本における知の交流
第2 章 日本の大学制度
(1) 黎明期:エリート養成の帝国大学
(2) 戦後の大学再生から普及期:民主主義と新制大学
(3) 日本の大学:大衆化と変化の時代
(4) 国立大学の独立行政法人化
(5) 大学のガバナンス
第3 章 グローバリゼーションと大学
(1) グローバリゼーションの波
(2) 国際化の原動力
(3) 日本の大学の場合
(4) 新たな段階を迎えた21 世紀
(5) 国際化と言語,文化の交流
(6) フェティシズム化されたコスモポリタン
第4 章 大学ランキング
(1) 国際市場における大学ランキング
(2) 日本の大学,そのヒエラルキー
(3) グローバル展開と日本の大学の分類
第5 章 ハイヤー・ランク大学の国際化,取材調査から
(1) ハイヤー・ランク大学(グローバル/リージョナル)
(2) 「世界クラスの大学」を目指す国立A ,B,C 大学
(3) 英語教育といくつかの課題
(4) 実質づくりのFD,SD,ルーチンワーク
(5) 財政的課題
(6) 求められる新たな大学運営
(7) 私立大学ならではのアプローチ
(8) ハイヤー・ランク国立大学の先の隘路
第6 章 中堅大学での国際化,取材調査から
(1) 中堅大学の選定
(2) インタビューに聞く生の声
(3) ロックステップ思考が創り出す「正統的な大学」
(4) 社会的想像力の混在:市民主義, 新自由主義, ナショナリズム 179
(5) グローバリズムとマーケティング
(6) インタビューによる実態の把握と限界
第7 章 日本と世界の高等教育,その先の姿
(1) 機能主義化する大学
(2) 切迫している日本の大学の存続
(3) 各国の歴史から見る大学の公共性
(4) グローバリゼーションを世界システム論から捉える
(5) ヨーロッパ地域で進められるボローニャ・プロセス
(6) ボローニャ・プロセスの推移と批判
(7) 大学の国際化,半周辺国の漂流
(8) 新自由主義によるグローバリゼーションを回避する
あとがき
付録
参考文献
定価 2,200円(税込)
刊行日 2025/7/18
*本書は2025年4月に発売された『日本の大学の国際化』の修正後の改訂版となります.