オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

大学の社会連携はどうあるべきか  ~大学経営のビジョンおよび未来の大学

学長アンケート2024-2025【Ⅱ.大学経営のビジョンおよび未来の大学(1)】


II. 大学の未来に関する集計結果

この部門では、大学の連携、育成を目指す人物像、高等教育の動向、大学の役割に関する学長の認識についての集計結果を分析します。

Ⅱ-1.大学の社会連携に関する以下の各項目について、今後の取り組み方を教えてください

【選択肢】
A:最優先で力を入れたい
B:今よりは力を入れたい
C:今の取り組みで現状維持
D:それほど力を入れなくてよい
E:取り組まなくてよい

はじめに、大学が連携したいと考えている対象別の優先度を一覧で示します。

項目NA 最優先B 今よりC 現状維持D それほどE 取り組まない
a. 地域コミュニティー34427.6%51.7%20.6%0.0%0.0%
b. 地域自治体(行政)34427.0%59.0%14.0%0.0%0.0%
c. 企業・ビジネス34127.3%58.9%12.0%1.8%0.0%
d. 他大学
(国内)
3427.0%59.1%31.9%2.0%0.0%
e. 他大学
(海外)
34312.0%50.4%30.9%5.8%0.9%
f. 高大接続34129.9%57.2%12.9%0.0%0.0%
g. 卒業生・同窓会34019.7%66.8%13.5%0.0%0.0%
多くの連携分野で「今よりは力を入れたい(B)」が過半数を占めており、特に「卒業生・同窓会との連携(B:66.8%)」「高大接続連携(B:57.2%)」への強化の意向が高く表れている。一方、「他大学との連携(国内・海外)」では「現状維持(C:30.9%)」も3割前後を占めており、既存の取組をベースにしつつ、選択的な強化を図ろうとする傾向が見られる。

次に、連携したい分野ごとに「A:最優先で力を入れたい」+「B:今よりは力を入れたい」の割合を考察します。A+B ≥ 80%:最重点連携ゾーンA+B=60〜80%:重点維持・強化ゾーンと定義すると、結果は以下の通りとなっています。

A+B ≥ 80%:最重点連携ゾーン
f. 高大接続(87.1%)
g. 卒業生・同窓会(86.5%)
a. 地域コミュニティー(79.3% ※ほぼ80%水準とみなす)
b. 地域自治体(行政)(86.0%)
c. 企業・ビジネス(86.2%)

A+B=60〜80%:重点維持・強化ゾーン
d. 他大学(国内)(66.1%)
e. 他大学(海外)(62.4%)

連携 7 項目(a〜g)の回答からは、大学が、外部とのつながりを「拡大すべき領域」と「維持すべき領域」を分けて考えているという構造がわかります。ここから以下4点(①~④)の示唆が得られます。

① 大学は「地域・企業・高校・卒業生」を、連携先として強化したいと考えている。

A+B が 80%以上の最重点ゾーン(=「最優先」「今より力を入れたい」)は、高大接続(87.1%)、卒業生・同窓会(86.5%)、地域コミュニティー(79.3%)、地域自治体(行政)(86.0%)、企業・ビジネス(86.2%)でした。多くの大学は、全体として、大学の社会的存在意義を支える基盤領域として、これらを強化すべきと考えています。とくに、「高大接続」「卒業生」「自治体」連携は、「やらない選択肢がない」レベルで強化意向が強くみられます。

② 大学連携(国内大学連携・海外大学連携)は、一定のニーズはあるが、強化意向がそれほど高くない。

国内大学連携(66.1%)、海外大学連携(62.4%)は決して低くない数字だが、地域や企業ほどの圧倒的な強化意向はみられず、現状維持(C)が 30%前後を占めています。多くの大学では「大学同士の連携」について、一部の大学を除き「優先順位はそこまで高くない」と考えているようです。とくに、国内大学連携は、すでに一定取り組んでいるところが多いためか、現状維持の姿勢がみられます。ここは、少子化・受験者数減少を主因とする「大学間競争の激化」と「教育リソースの制約」が背景にあると考えてよいでしょう。

③ 大学は「地域 × 企業 × 高校 × 卒業生」の恒久的な連携を求めている。

最重点ゾーンの項目をよく見ると、地域(コミュニティ・自治体)+企業+高大接続+卒業生という一気通貫ラインになっている。地域課題から、企業との協働プロジェクトへ、そして、高校生の教育から、卒業生・同窓生ネットワークの構築へという流れ・循環の構築です。いわゆる「エンロールマネジメント」の考え方を取り入れる大学が増えているとも言えるでしょう。

多くの大学では、形式的な連携ではなく、地域社会全体と接続する”恒久的な連携”を志向しています。大学の理念や中期計画等に明文化されていないとしても、地域を巻き込んだ、教育的な価値の循環システム(教育エコシステム)を理念的な目標に据えているということです。これは、政府の政策動向(地域創生、地域連携、学び直し)とも一致しています。

④ 大学内部・大学間リソースより、「大学外・外部連携リソース」志向が強い

当然ながら、大学内部では対応が難しい領域ほど、外部連携の必要性は高いと言えます。たとえば、企業連携では、「人材」「DX」「PBL」、高大接続連携では、「入試制度」「教育改革」「学生(早期)確保」、卒業生・同窓会連携では、「寄付金」「協賛」「社会人教育・リスキリング(学生確保)」といった領域です。多くの大学が、社会貢献・社会とのつながりから、教育の強化を図ろうとしていることがみえます。国内外の大学との連携は「選択的・目的別」に重視していますが、多くの大学が優先的に求めているのは「地域社会全体」とつながり続けるエコシステムづくりのようです。


分析・記事 原田広幸(KEI大学経営総研)

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