『Z世代化する社会–お客様になっていく若者たち』【KEI Book Club 書評】
今回のレビューは・・・
舟津昌平『Z世代化する社会ーーお客様になっていく若者たち』(東洋経済新報社)
著者は、1989年生まれ、東京大学で教鞭をとる新進気鋭の経営学者だ。いわゆる「ゆとり世代」の学者による世代論・若者論だが、するどい現代社会論でもある。
「はじめに」で著者はこう述べる。「Z世代と呼ばれる若者たちを観察することで、われわれが生きる社会の在り方と変化を展望」する、と。
その内容は、決してうれしくなるものではないが、奈良県生まれ京都大学出身という関西人っぽい軽妙な語り口でするっと読ませてしまうのは、著者の筆力のせいだろうか。
本書は、著者自らが明かしているように、「企業やビジネスといった視点が中心」で、教育論を主眼としてはいないが、個人的には、教育論を展開する部分にも「刺さる」ところがあった。
たとえば、ビジネスのターゲットとして若者がお客様化し、他者に不快感を与えないように配慮し「大学がテーマパーク化」していくこと、社会人になれば本来お客様ではないはずの部下を、上司は怒れなくなっていること、などなど、更なる少子化が進行していく今後の社会について、ちょっと恐ろしく感じるような分析が書かれている。
また、「探究学習「や「金融学習」の必須化などの「高校の大学化」を例に、初等中等教育が学校という閉じられた系では収まらず、結果的に教育ビジネスに一定程度依存せざるを得ない昨今の流れについても触れられている。
実際に、2022年度からの高校新課程では、「社会に開かれた教育課程」が強調され、経済産業省は「探究的な学びに資する民間サービス等利活用促進事業費補助金」を予算化するなど、国の制度設計にもビジネス的な要素はある程度織り込まれている。
授業・活動を運営する学校サイドでも、教師のコーディネーター的な役割・能力が必要になり、特に経験の浅い若手教員は負担感を感じる場合も考えられる。(このレビューを書いている)民間教育サービス事業者である私たちも、本書で取り上げられている一部の就活サービスのように、学校や生徒を侵食してしまわないように自戒したいところである。
本書は、非常に話題になっているようで、ネットショップのレビューには、発刊から1か月ほどしか経っていないのに、非常に多くの書評がアップされている。
東洋経済オンラインにある下記のものをまずはご参照いただければと思う。
https://toyokeizai.net/articles/-/742684
https://toyokeizai.net/articles/-/753899
レビュアー:KEIアドバンス コンサルタント 満渕 匡彦(まぶち まさひこ)