
東京外国語大学 春名学長インタビュー
--なるほど。第二次世界大戦を経て日本や世界は変わったと言われていますが、これまでの世代とZ世代の間には、何かそれ以上の内面的な変化というか断裂のようなものがあるのかもしれませんね。
春名:そうですね。ただ、それは人が変わったというより、そう変わらざるを得なかった環境の変化だと思います。
--先ほど、市民が大学に入るようになったとおっしゃいましたが、場合によっては誰でも大学に入れるようになっていくことに対して、何かお考えはありますか?
春名:私は、そうなっていくだろうし、そうなっていくべきではないかと思っています。ちょうど、この2月に中央教育審議会の大学分科会が、「我が国の『知の総和』向上の未来像」を答申しましたが、やはり人口そのものが減っていく中で様々なものの水準を維持していくのだったら、個人のスキルアップを図っていくしかない。一人一人への投資が増えていくという方向性は必然なのではないでしょうか。
■ 新学長が描く、今後の展望とは
--新学長としての展望もお聞きしたいと思います。これから任期が4年間ありますが、学長として取り組みたいことや、東京外国語大学の今後の方向性なども教えていただけますでしょうか。
春名:スピーチする機会を頂くたびにいつも言っているのですが、6年制教育を目指したいと思っています。学部と修士課程を一体化して、学部に入った学生が全員修士課程まで進み6年で修了する。そのためのモデルをつくり上げていくということが、この4年間でぜひ取り組みたいし、取り組まなければいけない課題ですね。それは、先ほどの話題に上がった「知の総和」という考え方とも一致しています。
世界的に見ても、日本の人文系人材の多くは学士号しか持っていないので、学歴がとても低いわけです。海外に行けば、修士号あるいは博士号を持つ人文系の労働者の割合が、日本よりはるかに高いことがわかります。
こうしたことを踏まえ、社会全体の知と同様に、それを証明する学位も高めていくことが必要だと思っています。だから、「東京外大に入学したら、全員修士号を持って出る」−こうした6年制教育をつくっていきたいと思います。
これは個人レベルでも、重要なことなんです。さっき言ったように人生は長くなりますから、もう少し長い年月を教育に充てるべきではないかと思います。さらに言うなら、見通しが立たない時代において、何か専門を身につけて仕事をやるにしても、その仕事が存在し続けるかどうかわからない。だから、何よりも求められるのは柔軟な思考力です。これを獲得するには、やはり多様な考え方に触れ、豊かな経験を積むことが必要。そうすると、当然時間がかかる。やはり、6年間は学んでほしいですね。
--ご自身で、これから研究していきたいことがあれば、お聞かせください。
春名:私は研究者として国際政治学を専門にしているのですが、こうした「学問知」が社会の中でどういうレレバンスを持っているのかということには、常に関心持ってきました。博士論文では国際政治学の学問史について書きましたが、今の関心は完全に実践の方にシフトしています。ここから4年間、まさに「実践」を楽しめるというわけです。その後は(当大学としては初めてのケースになるのですが)一般の教員に戻りますので、その際は、4年間の経験を踏まえて、政治学的な視点から、「学問と社会」や「民主主義と教育」について考えていきたいと思います。