TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

東京外国語大学 春名学長インタビュー

英語能力の強化と6年制教育を目指す、東京外大の新時代


国際教育に注力した10年間

春名:着任に至った経緯については、実はあまり話すことはなく、講師が公募されていたので、それに応募した結果、採用されたというところなんですが(笑)。ただ、「留学生を対象とした教育ができること」という条件がついていて、しかも内容が「日本政治」ということだったので、ぜひやりたいなと思ったことは覚えています。

春名:そうですね。ここに来る前、非常勤で教えていた大学のひとつが、愛知県名古屋市を拠点とする中京大学でした。私がいた15年ほど前は、ちょうど交換留学を活発化させていた時期だったんです。そこで、英語で授業ができる教員が必要になった。私は、もともと「平和論」という授業を担当していたのですが、そのような事情から留学生を対象に「Japanese Cultural and Society(日本の文化と社会)」のような内容を英語で教えるようになりました。

これが、とても面白かった。留学生と交わす議論の中から、自分にはない視点で日本を見るようになりますし、それによって他のものに対する自分の見方も変わっていきます。だから、留学生を対象とした授業という点には、大きな魅力を感じていました。

春名:何よりも印象深いのは、メルボルン大学とダブル・ディグリー協定を結んだことです。巨視的には、クアッドの一角、オーストラリアが脱中国をはかるなかで、私たちのような小さな大学がオーストラリアの巨人と手を結ぶ機会が生まれ、微視的には、30年前にメルボルン大学で席を並べていた2人の日本人教員が抱いていた夢が実現した瞬間でした。2人は、将来、日本の大学と学生交流を行いたいと語り合い、1人はメルボルン大学に残り、1人は日本に帰国しました。帰国した1人が定年まで勤め上げた東京外国語大学が、ついにメルボルン大学とダブル・ディグリーを始めるのです。

このような壮大な企画にかかわる機会もありますが、副学長の仕事というのは、実はルーティーンが多いのが実情です。その中で苦労していることのひとつが、留学生の受け入れです。当大学としては、留学生や国際交流を増やしていきたい。これに関しては、交換留学というスキームがベースですから、送り出したければ受け入れなくてはいけない。交換留学の場合、留学生の滞在期間は、1年弱。そうすると、外部でアパートを借りられず、寮を使う必要があるのですが、そちらの収容能力が限界に達しつつあります。こういった問題にどう対応していくかということが、この2年間、特にコロナ禍が明けて留学が再活性化している中で直面してきた課題ではありますね。

大学の課題としては、そこが大きいのですが、一教員として留学生との関係で強く印象に残っている出来事の多くは、教室の中で起きています。私は、(2019年に設置された)国際日本学部の立ち上げ段階から関わってきました。様々な形で設計に携わり、どういった授業を準備し、どれだけの学生を募集するかなど、具体的な事柄を決めていきました。

国際日本学部は、留学生が40%を占めます。75人の定員に対して留学生枠が30人、もっと多いこともあるので、実際には日本人学生と留学生の割合が半々という感覚なんです。この環境がなかなか面白いと私は思っていたし、さらに面白くなるだろうと期待しています。ただ、難しさもあります。

国際日本学部ができる前、ある留学生に言われた言葉を、今でも覚えています。その学生は「私はわざわざ大学に足を運び、時間を合わせて教室まで来る。『わざわざ』ここまで来る意味がないような授業なら、取らないよ」と言ったんです。留学生って、教室の中でも外でも、思ったことをはっきり言いますよね。

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