
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[後編]
■ 受験を超えて――「歴史の面白さ」が伝わる授業を
私の学生時代、とある参考書が一世を風靡していました。
私は予備校講師になる前に、少しだけ私立高校の非常勤講師をしていた時期がありますが、その研修の際、件の参考書とは言わずして、その内容をそのまま引用したような研修授業を見せられたことすらあります。それほどまでに、その参考書は絶大な人気を博していたのです。
参考書自体は確かに面白いし、実際、試験の得点アップに役に立つものではあったと思います。しかし、その「面白さ」は、「覚えること」に特化した、語呂合わせのギャグ的な面白さです。純粋な歴史の面白さとは方向性を異にしていました。私はその点に強い疑問を覚えます。「これで良いのか?」「受験に合格させることができればなんでも良いのか?」こうした思いを拭い去ることはできませんでした。
その後、何の因果か私も予備校講師となり、生徒を受験に合格させることを生業とするようになります。この仕事をする中で私が常々意識しているのは、「単なる受験突破のための授業とならないようにすること」です。歴史の流れに生徒の目が向くよう努め、日本史の「歴史としての面白さ」が記憶に残るような授業を心掛けています。私の伝えたいことがどれほど生徒たちに伝わっているのかは分かりませんが、「純粋な歴史の面白さを伝えること」は、この先も変わらず大切にしたい、私の授業のポリシーです。
――受験合格だけを目的とするのではなく、先生のご指導の根底にはあくまでも「歴史の面白さを伝えたい」という思いがあるのですね。
そのため、「先生のおかげで点が取れるようになりました」と言ってもらえるよりも、「先生の授業面白かったです、楽しかったです」と言ってもらえる方が、私は嬉しいです。
単に点が取れるようになっただけでは、おそらくその人と「歴史」との関係は、受験が終わった時点で切れてしまうでしょう。しかし、「面白い」「楽しい」と感じてもらえたならば、その先も「歴史」に関心を持ち続けてくれるような気がしています。私の授業を通して、「純粋な歴史の面白さ」や「歴史の本当の学び」に少しでも触れる機会を提供できているとしたら、これ以上に喜ばしいことはありません。
――中垣先生が伝えたい「歴史の面白さ」とは、具体的どのようなものでしょうか。
難しい質問ですね。ただ、私は授業中に、形式的な話だけでなく、できるだけ「人」の話をするよう心掛けています。結局のところ、歴史とは人間がやってきたことの集積です。人が何を感じ、どう考え、どのように行動しようとしたのか。限られた授業時間ではありますが、そうした話をできるだけ組み込み、生徒に伝わるよう工夫をしています。だから、生徒がその部分に食いついてきてくれると、とても嬉しいです。
2025年度入試が終わった今年の3月、担当していた大学受験科生の生徒が、私のもとへ合格報告に来てくれました。その際、お礼とともに、「先生の授業、幸せでした」と言ってくれたのです。ありがたいことに、これまでも「面白かったです」「楽しかったです」「先生の授業が好きでした」といった言葉はたくさんいただいてきましたが、「幸せでした」というのは初めて聞いた表現でした。面と向かってそのような言葉を使ってくれるほどの時間を生徒たちに提供できていたのだとしたら、それは私としても本当に幸せなことです。たいへん報われた気持ちにさせていただきました。
――素敵なエピソードをお聞きすることができ、私も幸せです。最後に、日本史関連に限らず、先生が若い世代におすすめしたい本をご紹介ください。
原田マハさんの一連のアートミステリーはとてもおすすめです。『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』など、ミステリー小説としての仕上がりも然ることながら、歴史や美術に関心を持つ、非常に良いきっかけになると思います。私も割と美術系が好きなものですから、好んで読んでいました。
――本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、誠にありがとうございました。
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中垣 秀作(なかがき・しゅうさく)先生
プロフィール:
河合塾日本史科講師。中部地区所属。授業は、講義・演習・ゼミなど幅広く担当。教材作成、入試分析等にも携わる。
早稲田大学第二文学部東洋文化専修卒業。学生時代の専攻は、歴史教育学。
著書:
『マーク式基礎問題集 歴史総合』(共著)[2025年 刊行予定]
インタビュー・執筆・編集:山口夏奈(KEI大学経営総合研究所 研究員)
インタビューアシスタント:原田広幸(KEI大学経営総合研究所 主任研究員)



 
							 
							 
							 
							 
							 
							 
							