河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[後編]

■ 私大入試における論述式問題の有効性と運用の難しさ

「良い問題とは何か」と考えたとき、やはり正しく歴史的思考力・判断力を問うことができる問題が良い問題なのだろうと思います。その意味で、やはり論述式問題がそうした力を試すのには最適なのではないでしょうか。

思考力・判断力はもちろん、表現力まで問うことができるのは、やはり論述式です。用語を単純に知識として理解する能力と、理解したことを文章で表現する能力は全くの別物です。

しかしながら、論述式問題を出題することは、採点負荷の増大に直結します。また現在、試験実施日から合格発表までのスケジュールは非常にタイトです。これらを考慮すると、特に私立大学において、論述式問題を出題しづらいのもよく理解できます。

一方で、近年、論述式問題を出題する私立大学が増加傾向にあることもまた事実です。各大学がより思考力の高い学生を求めるようになっているのでしょう。

しかしそうなってくると、今度は受験生側が、大学が求めるレベルについていけるのかが少々心配です。模試の解答などを見ていると、論述式問題にまったく太刀打ちできない受験生は少なくありません。悩ましいところです。


本件に関連して、2025年度の入試が始まる前から日本史科教員の注目を集めていた大学があります。慶応義塾大学法学部です。

なぜならば、歴史科目の出題形式について、従来の選択式のみの形から、論述式問題も課す形へ変更するとし、サンプル問題まで公表されたからです。なお、出題形式の変更に伴い、試験時間が延長され、配点も増加しました(試験時間:60分→90分、配点:100点→150点)。これまでよりも歴史科目が重視されるようになったと言えます。

サンプル問題は、近代の外交史をテーマとする250字の論述でした。加えて、慶応義塾大学は『歴史総合』も出題範囲に含むとしていた大学です。そのため我々は、「きっと『歴史総合』の範囲から論述式問題が出題されるのだろう」と予想していました。

ところが、ふたを開けてみると、論述式問題は近現代史からの出題ではありませんでした。問題Ⅲが古代(真言宗と朝廷の関係)、問題Ⅳが近世(享保期における米価と諸色の物価対策)をテーマとするものだったのです。また、サンプル問題で論述式は1題であったのに対し、入試本番では2題出題されています。さらに、字数も200字・280字と、そこそこの分量が求められました。受験生はさぞ動揺したでしょう。

この形式且つこの字数の出題が次年度以降も続く場合、指導する側は「慶応義塾大学法学部は論述式中心の大学」と認識を改めていく必要があります。この変化は、2025年度の入試における大きなトピックスの一つでした。

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