河合塾講師が語る！2025年度新課程入試 ―日本史編―［後編］
河合塾 日本史科講師 中垣秀作先生インタビュー【独自記事】
平成30年（2018年）に告示された新学習指導要領。その中でとりわけ大きな改訂がみられた科目の一つに『歴史』が挙げられる。従来の『日本史Ａ』『日本史Ｂ』『世界史Ａ』『世界史Ｂ』から『歴史総合』『日本史探究』『世界史探究』へと再編成がなされ、主体的で多角的な学びが強調されたほか、特に『歴史総合』においては、日本史と世界史の相互関連性がこれまで以上に重視されるようになった。
2025年度の大学入試は、新課程入試の初年度であると同時に、今回の課程変更の集大成とも言えるものである。そこで我々は、2025年度入試に関する河合塾講師へのインタビュー取材を実施した。
日本史編の後編では、河合塾日本史科講師：中垣秀作先生に、課程変更が生徒の思考や志望動向へ影響を及ぼしているのか、その実態をお聞きしている。このほか、「歴史」を学んだ生徒たちへのメッセージや大学教育に期待することにも言及いただいた。実際のエピソードを交えて語られる、単なる受験指導にとどまらない中垣先生の授業のポリシーにも、ぜひご注目いただきたい。
【目次】
■ 新課程での学習は生徒の思考に変化をもたらしているか
■ 学習指導要領改訂と、生徒の志望動向・科目選択との関係
■ コラム② 『歴史総合』は高３で学ぶ方が面白い？
■ 私大入試における論述式問題の有効性と運用の難しさ
■ どの分野においても、「歴史」は常に学びの対象である
■ コラム③ 日本史科へ進むきっかけは大学進学後のゼミ
■ 受験を超えて――「歴史の面白さ」が伝わる授業を
◀2025年度共通テストの結果分析と受験生の反応、各大学個別試験における新課程への対応状況が語られる前編はこちら
■ 新課程での学習は生徒の思考に変化をもたらしているか
――『歴史総合』の必履修化により、生徒は日本の歴史と世界の歴史を相互関連的に学ぶようになりました。このことは、生徒の視点や考え方に変化をもたらしているのでしょうか。
現時点では生徒の視点や考え方に変化は見られません。『歴史総合』によほど意欲的に取り組んだ高校の生徒であれば話は違ってくるのかもしれませんが、ほとんどの高校では、探究的な学習を行いたくても、教科書の内容を最後までやり切ることに精一杯のようです。こうした状況に鑑みると、生徒の思考に変化が見られないのは、ある意味当然なのかもしれません。
また、『歴史総合』は１年次に履修する科目です。本格的に受験勉強を始める頃には、学んだ内容や獲得した視点を忘れてしまっている可能性も考えられます。
――確かに、よほど印象に残っていない限り、１年次に学んだ内容は、受験の頃には記憶が薄れてしまっていることも多い気がします。しかしながら、各大学の個別試験でこれだけ『歴史総合』の範囲からの出題が見られたとなると、生徒たちの『歴史総合』に対する意識は変わってくるでしょうか。
自身の志望する大学が『歴史総合』を重視するのであれば、意識が「変わる」というよりも、「変えざるを得ない」と思います。「『日本史探究』に加えて『歴史総合』も真剣に勉強しなければならない」というプレッシャーにもなるでしょう。「負担感が増す」と言うほうが適当かもしれません。
――あくまでも、受験生にとって『歴史総合』は「負担」というイメージなのですね。
そうだと思います。ただし、2025年度の入試に関して言えば、例えば一橋大学や名古屋大学が、日本史・世界史の共通問題として『歴史総合』の範囲から出題をしていましたが、ともに日本史・世界史どちらの科目選択者にも、それほど負担なくアプローチ可能な問題になっていました。しかしながら、共通問題として出題しやすいテーマは、実はそれほど多くありません。いつネタ切れになっても不思議ではないのです。
――世界史側でも同じことをおっしゃっていました。
懸念している点はやはり同じですね。
――今回、『歴史総合』とならんで、『地理総合』『公共』も必履修科目となりました。これに伴い、日本史を選択する生徒たちの視点や考え方に変化は見られ始めているでしょうか。
こちらに関しても、まだ変化は見られません。また、私が担当しているのは主として大学受験科生（いわゆる既卒生）のクラスのため、2024年度の現役生とは深く話をする機会にあまり恵まれませんでした。ゆえに、実感としては分かりかねます。
他方、2025年度は大学受験科生も含めて、基本的に生徒は新課程で学んできた人たちです。彼らの学びや考え方に変化が見られるのか、意識して探ってみたいと思います。
