河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[前編]

コラム① 近年の資料を用いた問題への懐疑

生徒の考える力を問う上で、論述問題は非常に有効です。その際、個人的には持ち込み可でも良いと思っています。私が出題者なら、従来の持ち込み不可の試験のほかに、このパターンを用意するかもしれません。

また、自論を申し上げますと、歴史を勉強する上で、資料読解に取り組むのは大学入学後で十分だと考えています。提示されている資料が適切か否かの判断ができない時分から、資料をどんどん読ませることに懸念を抱いているからです。

本来「資料を読む」とは、その資料全体に目を通し、行間を読んでいく作業を言うのであり、決してキャッチーなところだけを拾い読みすることではありません。しかしながら、昨今の資料を用いた問題の多くは、「資料から自分の知識と合致するポイントを見つけて、どのような内容が述べられている資料かを特定させること」に主眼が置かれています。そのため、解答に不要な部分はカットされ、資料がそのまま用いられていないことがほとんどです。これでは生徒に、資料の「悪い読み方」の癖がついてしまいます。だから、近年の入試問題における資料の扱われ方に、私は反対です。

他方、作問者の視点に立つと、そのようなポイントで資料を探してしまう気持ちもよく分かります。我々もふとした瞬間に、「美味しい資料」なんて言い方をしてしまいますから。けれども、そもそも世の中に「美味しいだけの資料」など存在しません。その意味でも、しっかりと資料全体を読み、行間を読むことが大切なのだと思います。人それぞれの読み方があって、その上で現在まで残ってきたのが、今日我々が見ることのできる資料ですから。


井上 徳子(いのうえ・のりこ)先生

プロフィール:
河合塾世界史科講師。近畿地区所属。授業は、講義・演習・ゼミなど幅広く担当。教材作成、入試分析等にも携わる。
京都大学文学部卒業。京都大学大学院文学研究科 博士後期課程 単位取得退学。学生時代の専攻は、五胡十六国時代史。

著書:
『判る! 解ける! 書ける! 世界史論述(三訂版)』河合出版(2025年)
『世界史最強の一問一答: 地図・論述・難関用語もこれ1冊で』河合出版(2019年)


インタビュー・執筆・編集:山口夏奈(KEI大学経営総合研究所 研究員)
インタビューアシスタント:満渕匡彦(KEI大学経営総合研究所 上席研究員)・原田広幸(KEI大学経営総合研究所 主任研究員)

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