河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[前編]

各大学の個別試験でみられた新課程への対応-『世界史探究』

まず、東京大学第2問 問(2)が挙げられます。イタリアのファシスト政権がローマ帝国の継承者であるとアピールしていることを資料から読み取り、ローマ帝国のどのような側面を強調することで、自らの正当性をアピールしているかを説明する問題です。古代ローマの歴史とファシスト政権の歴史を、単に史実にとどまらずその特徴まで想起したうえで思考しなければならないため、論点の暗記だけでは太刀打ちできません。思考力が試される良問であったと思います。

また、第1問は従来通りの形式でしたが、第2問、第3問はともに、必ず資料との紐付けがなされていました。その資料も、文章、写真、図版、グラフなど、非常にバリエーション豊かです。東京大学では、これまでも資料を用いた問題が出題されることはままありましたが、これほど徹底して使用していたのは初めてだったため、やはり探究を意識した出題がなされていると感じました。
河合塾|大学入試解答速報|東京大学 前期
東京大学|令和7(2025)年度第2次学力試験問題


続いて、京都大学大問ⅣB、近代憲法をテーマとした問題です。その問(14)で、アメリカ合衆国憲法とチェロキー国憲法というよく似た2つの憲法を示し、それらから読み取れるチェロキー国憲法の特徴を挙げるよう求めています。各憲法の成立年にも注目しつつ、両史料を比較しながら共通点、相違点を抽出していく作業は、まさに探究的です。

また、最終問題である問(18)(ア)、リード文を踏まえて論述する問題は非常に難しいです。問われている内容はもちろん、最終問題においてリード文の読み直しを求められるわけですから、さぞ受験生は動揺したことでしょう。しかも、おそらくこのタイプの問題は、京都大学での出題歴がありません。その意味でも、かなり難度の高い問題であったと思います。

そもそも京都大学は、これまであまり史料の読み取り問題を出題してきませんでした。しかし、2025年度は3か所で史料が用いられています。このことから、世界史の試験全体として探究が強く意識されていたと言えるでしょう。その中でも特にこの2問は、非常に探究に対応してきた問題でした。
河合塾|大学入試解答速報|京都大学 前期
京都大学|令和7年度 試験問題および出題意図等


大阪大学文学部および外国語学部(Ⅰ)、クリミア・ハン国の問題もとても探究的でした。本問はクリミア・ハン国の君主がなぜロドス島で処刑されたのかを、提示された詩の内容を踏まえて論述させるもので、詩が何を表現しているのかを読み取り、史実と照らし合わせながら解答を作成することが求められています。
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大阪大学|令和7年度入試の問題・解答例等


慶應義塾大学経済学部大問Ⅱ問7や、大問Ⅲ問11に見られる、「前問の解答を導き出した理由」を問う問題は探究的です。ただし、このタイプの問題自体は、従来も同学部の入試で出題されていたため、目新しさがあるわけではありません。しかしながら、探究を意識した良問としては、カウントして然るべきだと思います。

ちなみに、同学部の大問Ⅳは『日本史』との共通問題で、『歴史総合』からの出題でした。実は、同学部ではこれまでも、小問単位で日本史と世界史の共通問題が見られたり、リード文が共通していたりしたことはありました。けれども、大問ごと共通というのは、今回が初めてだったのではないでしょうか。
河合塾|大学入試解答速報|慶應義塾大学 経済学部


近畿圏の私立大学では、2025年度は新課程に伴う入試問題の変化がほとんど見られませんでした。しかし、探究的な作問へのシフトが始まったかもしれないのが、同志社大学です。学部個別日程(2月6日)大問Ⅰ設問11にその兆しが見られます。

本問は、古代の交易ルートに関する資料を読んだ上で、4つの文の正誤判定をする問題です。その文のひとつに、「シルクロード交易において、ローマ帝国からの輸出品として葡萄酒が、インドから地中海世界への輸出品として胡椒があった」というものがあります。

この文の正誤判定のポイントは「シルクロード」の捉え方です。実は、シルクロードは一つのルートに定められるものではありません。「絹の道」と「海の道」をまとめてシルクロードと考える場合もあれば、両者を区別し、「絹の道」のみをシルクロードとする場合もあります。そうすると、上記の文における「シルクロード」がどのルートを指しているのか、当該の文のみでは分からず、正誤の判断がつけられないのです。

そこで重要となるのが、提示されている資料です。資料中のナイル川と紅海を結ぶ運河開削についての記述や、シルクロード交易の輸出品として葡萄酒が挙げられている点から、本問におけるシルクロードには「海の道」も含まれることが分かります。これにより、正誤の判断が可能となるのです。

つまり本問は、きちんと資料を読まずに、自らの知識だけで正誤判定をしようとすると、間違えるようなつくりになっていると言えます。資料の読み取りが鍵となる問題が出題され始めた点に、少し探究のエッセンスを感じました。


2025年度は比較的、万博をテーマとする問題が多かったです。ここ数年、いま世界で起こっている出来事に着想を得て作問がなされる傾向があります。例えば、近年の入試では19世紀のロシアの南下政策に関する問題が非常に多く見られますが、これはまさしく、現在のウクライナ情勢と関連づいたものです。

他方、おっしゃったような国際理解に関する問題は、以前からよく出題されていました。そのほか、地域的特質を明らかにしたうえで、世界が一体化していく過程を問う問題なども、従来よく見られています。そのため、「新課程になって、そういったテーマを扱う問題が急増した」という印象はあまりありません。

ただし、全国的に資料を用いた問題が増加したことは確かです。京都大学然り、探究的な学習を意識した問題にシフトしてきたと感じています。

(取材時点では)すべての入試問題を確認できていないため答えにくいところではありますが、東京大学のローマの問題(第2問 問(2))でしょうか。現時点では、この問題に軍配を上げましょう。


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