
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[前編]
■ 各大学の個別試験でみられた新課程への対応① -『歴史総合』-
――続いて、各大学の個別試験についておうかがいします。各大学の入試問題においても、新課程への対応がかなり見られたように感じています。探究的な学習を意識している問題が散見されたほか、『歴史総合』を出題範囲に含むと発表していた大学では、日本史の内容を絡めた大小さまざまな問題が出題されていました。
おっしゃるように、対応の度合いに差はあるものの、新課程を全く無視した大学はなかったように私も感じています。ただし、現時点(3月中旬取材時)ではすべての入試問題を確認できていないため、今回は把握できている範囲でのコメントとなります。
――まず、先生がご覧になった中で『歴史総合』の観点がうまく取り入れられていると感じた入試問題を教えてください。
そもそも今回、「『歴史総合』を出題範囲に含む」と発表していた大学の入試問題を実際に見たとき、出題形式で大きく3パターンに分けられると思いました。
①うまく日本史と世界史の融合問題が作られているパターン。
②世界史の問題に少し日本史の内容を組み込んだパターン。
→ これが一番多かったです。
③『日本史探究』と『世界史探究』の共通問題として、『歴史総合』を出題しているパターン。
→ 一橋大学や名古屋大学の問題がこれにあたります。
→ 余談ですが、『日本史探究』と『世界史探究』の共通問題として『歴史総合』が出題されている場合、そのテーマのほとんどは、中国または朝鮮の近現代史です。科目を横断した利用がしやすいからなのでしょう。
さて、上記3パターンの出題形式がある中で、うまく日本史と世界史を融合できていると感じたのが、慶応義塾大学文学部の大問Ⅰです。「近現代における東アジア史と西アジア史の共通点」をテーマに、工業や移民といった内容を扱っています。
例えば空欄(A)は2か所ありますが、1つ目の空欄では、レバノンで「新技術の(A)製糸」と書かれているだけです。この部分のみで当てはまる語句が分かった受験生はほとんどいないでしょう。しかし、2つ目の空欄で、「(A)製糸を富岡製糸場に導入」とあることから、空欄(A)に当てはまるのが「器械」だと分かる仕組みになっています。
また、空欄(B)は当てはまる国名を答えさせるものですが、3か所ある空欄(B)のうち、3つ目付近に、合衆国が日本人移民を禁止したのち、南米が日本人の主な移住先となった旨の記述があります。ブラジルに移住する日本人が増えたことは、『歴史総合』の必修事項です。それをうまく文章に組み込み、解答を導き出せるようにしている点に工夫を感じました。
さらに、第4段落で満蒙開拓の話題が出てきたり、最後の設問(ア)で日本史の内容を問うて大問を締めくくっていたりもします。これらより、本問が日本史と世界史をうまく融合してまとめている、『歴史総合』として典型的で良い問題だと思いました。
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――他方、『歴史総合』の問題において、「もうひと工夫でさらなる良問になった!」と感じられたものはありますか。
九州大学の〔2〕は、面白いイラストや資料を複数用いて、とても意欲的な作問をされていらっしゃいます。だからこそ、もうひと工夫でいっそう良い問題になったと思います。
〔2〕うち、『歴史総合』に関わるのは問5です。設問文で《資料3》のイラストの説明がなされたのち、「(1)上記の(=《資料3》のイラストが掲載された当時、中国で大規模な排外運動を展開していた)宗教的武術集団」の名称と、「(2)上記の宗教的武術集団が排外運動において掲げた」スローガンを問うています。
しかし、これだけ情報が揃ってしまうと、答えが「義和団」であることは明白です。そのため、問うのは(1)、(2)のどちらか一方で十分だったかもしれません。
個人的には、《資料3》のイラストの読み取りも、受験生にさせてよかったと思います。あるいは、出題側でイラストの読み取りまで行ったとしても、単答記述式ではなく、小論述形式にすると、より受験生の思考力や表現力を試すことができる問題になったのではないでしょうか。
――小論文形式で問うとすれば、どのような問い方が考えられるでしょうか。
2パターンが考えられます。一つは、《資料3》のイラストが雑誌に掲載された当時の、イギリスの政治的背景を問うものです。帝国主義諸国の中国侵略を正当化すべく、「『文明』が『野蛮』を撃退する」という構図が前面に押し出されたイラストを用いた、イギリスの政治戦略について論述させます。そうすると、およそ50~70字の小論述問題となり、とても『歴史総合』的な問いにもなるでしょう。
もう一つは、《資料3》のイラストが雑誌に掲載された当時の、中国の情勢について論述させるものです。設問文におけるイラスト説明を「宗教的武術集団を戯画化したものとされる」までとし、問いを「このイラストがイギリスの雑誌に掲載されることになったのはなぜか、当時の中国の情勢について述べよ」などとすれば、義和団が「扶清滅洋」を唱えて北京の外国公使館を包囲したことを論述させられます。義和団戦争勃発のきっかけが、義和団が北京の各国公使館を包囲したことであり、義和団戦争の時期が1900~1901年であることは、『歴史総合』で必ず学ぶ内容です。これらを、「中国の動きに対抗すべく、このイラストが1900年7月にイギリスの雑誌に掲載された」という形でまとめれば、「扶清滅洋」も問えて、イラストもさらに生かせる問題になったのではないでしょうか。「CIVILISATION」を受験生自身に翻訳させたりすると、より今風の問題になりますね。
同様に問7(2)も、もうひと工夫できたかもしれません。日比谷焼討ち事件について問うている問題ですが、例えば短いものでよいので当時の日本の資料を示し、「彼らは何に対して怒っているのか」という問い方もあり得たように思います。これまでに用いられている資料が世界史関連のものばかりですから、一つ日本史関連の資料があっても面白かったでしょう。
余談ですが、九州大学の世界史の問題は、非常に東京大学を意識した構成になっていると思います(第1問が長めの論述問題、第2問が小論述問題、第3問が単答記述問題)。東京大学と異なるのは、九州大学では従来、第2問で資料を用いた問題を出題する傾向があることです。上述の通り、2025年度の問題でも、資料がふんだんに使用されていました。
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