河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[前編]

共通テスト新科目『歴史総合,世界史探究』結果分析① -『歴史総合』

私が授業を担当しているのは、主として大学受験科生(いわゆる既卒生)のクラスです。そのため、『歴史総合,世界史探究』で受験をした高校3年生の生徒たちとは、レギュラー授業であまり関わる機会がありませんでした。彼らと密な交流が持てたのは、直前講習など講習会の場面に限られ、試験後の感想も、残念ながら直接はあまり聞けていません。ただし、河合塾が実施している「共通テストリサーチ」の結果から、受験生が困ったであろうポイントは把握しています。

『歴史総合』の範囲で最も正答率が低かったのは、第1問 問5、「1920~1930年代の東アジアの女性の装いについて」「パネル1から読み取れることや、その背景について述べた文として最も適当なもの」を選ぶ問題です(以下、問題番号は『歴史総合,世界史探究』に準ずる)。正答率は41.5%でした。

本問の正解は②の文です(「② 東アジアでは、独立国、植民地、租界を問わず、モダンガールの装い見られた」)。パネル1の記述「1920年代後半の東京や大阪で、モダンガール」、ならびに「1930年代の京城や上海、天津などでも、モダンガールの装いが見られた」を踏まえると、②の文における「独立国」が日本、「植民地」が当時日本に併合されていた朝鮮半島を指していると分かります。また、「租界」は上海、天津など開港地に設置されていました。以上より、東アジアの独立国、植民地、租界ではモダンガールの装いが見られたと判断できる、という構造です。

①と④の誤文判定は、よくできていました。①のモダンガールの髪型については、日本史固有の内容で、世界史では基本的に扱いません。けれども、『歴史総合』の教科書に写真や図版が多く掲載されているため、モダンガールがどのような様相の女性か、世界史選択の受験生もイメージが持てていたのでしょう。

④は、女性誌『玲瓏』が上海で創刊された当時の中国の国名を問うものです。これはパネル1の、「上海で1931~1937年に発行された女性誌『玲瓏』」という部分から、「中華人民共和国ができるのは第二次世界大戦後のため、④は誤り」と判断します。先ほど話題に上がった、時代感覚が問われるタイプの問題です。

受験生の誤答として多かったのが③の文です。正答の②と同程度のマーク率でした(マーク率:②正答41.5%、③36.2%)。1930年代、つまり日本に併合されている時期の京城に設置されているのは、総督府であり、統監府ではありません。統監府は、大韓帝国(韓国)が日本の保護国であった時代に設置されていた機関で、いわゆる韓国併合を機に、1910年、総督府に改組されます。仮に、この1910年という年号が思い出せなくても、第一次世界大戦前にはすでに統治機関が総督府となっていることを理解できていれば、③が誤りであるとの判断は可能です。これもまた、時期による判定をさせています。

おそらく受験生としては、③の統監府と総督府の違いが分かっていない、あるいは②の租界についての知識が不足していたことが、正答を選べなかった理由でしょう。つまり、結果的に知識の有無で差がついてはいます。けれども、パネルの読み取りだけでなく、自分の知識を総合して解答を導き出すという点で、本問は非常に『歴史総合』らしい問題であったと思います。


しかし残念ながら、私はこの問題を良問として挙げることができません。なぜなら、正文の②に惜しい点があるからです。

②の「租界を問わず、モダンガールの装いが見られた」という部分について、確かに上海や天津に租界はあります。けれども、上海、天津「全体」が租界ではありません。そのため、厳密に言えば、パネル1の「上海、天津などでも、モダンガールの装いが見られた」という記述だけでは、上海、天津の「租界」にモダンガールがいたかどうかは判断ができないのです。

とはいえ、租界は欧米列強が租借している地域ですから、モダンガールが欧米の装いの模倣である以上、「そりゃあ、租界にもいるでしょう」という判断はあり得ると思います。それに、他の選択肢が明らかに誤りです。よって、「最も適当なものを選ぶ問題」としては成立していると言えるでしょう。

今、「最も適当なものを選ぶ問題」と言いましたが、これも共通テストになって変化したことの一つです。センター試験時代は「正しいものを選ぶ問題」でした。「正しいもの」という問い方の場合、②は誤りになるでしょうね。

細かな指摘をしましたが、非常に意欲的な出題で、個人的にはとても好きです。日本史と世界史がうまく融合している、よく工夫された問題だと思います。


世界史の立場から『歴史総合』を見る場合、やはり日本史の内容が入っている問題に注目します。そのため、たとえよく工夫された問題であったとしても、世界史の知識だけで解答できてしまうものについては、今回良問として挙げません。これを前提に述べると、第1問 問2や問8が『歴史総合』としては良い問題であるように思います。

問2は、会話文を参考にしつつ、下線部ⓐ(図1の会談が行われた時期)を推定する方法と、その方法で絞り込んだ時期として最も適当なものを選ぶ問題です。「推定する方法」を出題している点に、生徒が主体的に調べ、考察する、『歴史総合』『世界史探究』の学びのコンセプトを感じます。そして本問でも、問われているのはやはり「時期」ですね。

本問の正解は①です。しかし、③を選んだ受験生も結構いました(マーク率:①正答78.0%、③16.5%)。このことから、「日本の政治家や軍人が、洋装を取り入れていった」のが、「近代的軍隊が創設される契機となった明治維新以降の時期」であることは多くの受験生が理解できていた一方で、「中国の官吏の間で、辮髪の風習が広く見られた時期」を正しく理解できていない受験生が意外と多かったと分かります。「共通テストリサーチ」のデータは、『世界史探究』まで学習した受験生のデータのため、「そこが押さえられていないのか」と、指導者側としては結構ショックでした。

また、問8は出来事を年代順に並び替える問題です。正答率は8割以上で、とてもよく出来ていました。

一部惜しい点を含むものもありますが、今挙げた3問は、日本史と世界史をうまく融合させた良い問題であったと思います。


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