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労使関係の組織行動論

『労使関係の組織行動論―従業員の伝わる声・伝わらない声』中央経済社

●著者 中川 亮平(なかがわ りょうへい)

著者による本書の紹介:

 日本において特徴的とされる企業別労働組合には、労使間の心理的距離が近いことによる長所(労組が会社の経営に関わる現場の意見を上層部に伝えやすい)と短所(元来上司と部下の関係であり条件交渉が困難になる)がある。このような環境下、従業員は組織のために提案し、自らのために要求できているのか。従業員と企業はどのように緊張関係を維持しているのか。企業別労働組合は企業との癒着を生むのか、発言を促すのか。これらの問いについて労使関係の変遷を振り返りながら豊富なインタビューから解明し、企業別労働組合自体は毒でも薬でもなく、従業員が発言できているかどうかが全ての鍵となるという議論を提示する。

  

 企業別労働組合という構造に伴う労使の癒着や外部からの緊張関係の欠如によって、組合の交渉力が減退していく危険性が指摘されてきた。特に日本の多くの製造業が経営難や変革を余儀なくされた2000年前後の時期にこのような現象が生じていることが想定された。このような状況下でも、労働組合はどのようにして交渉力を維持し続けたのか、あるいは獲得したのかを解明した。具体的には、企業の変革前から変革後にかけて組合が2種の発言をどのように駆使してきたのかについて質的研究を行い、むしろ企業別組合だからこそ能動的な発言行動によって緊張関係を維持させてきたことを明らかにした。

 本書では、発言の主体が労働組合か否かに関わらず、効果的な発言行動のメカニズムを提示したことによって新たな時代の労使関係を再考する実務的な示唆を提供している。また、企業別労働組合の負の部分が多く指摘されてきた中(実際に「御用組合」的な労働組合は多く存在する)、真の問題はその特徴自体ではなく能動的な発言行動にあることも示している。  この類いの研究を推し進めてゆく重要性は日本に限らず、多くの国々にも当てはまる可能性が高い。労働組合の組織率が過去数十年に渡って低下しているのは多くの国に共通する現象であるが、潮流に変化も見られる。1992年に英国のキャドバリー報告書が公表されて以来各国でコーポレートガバナンスの制度的見直しが進み、日本に限らず世界的に人的資源との対話が必要であるという認識が強まっている。最近の米国では巨大IT企業の各地の倉庫やコーヒーチェーンなどで労働組合が組成されようとしていることがマスコミを賑わせてもいる。このような状況下、質的研究が果たせる役割は増してゆく可能性もある。今後は研究が分野を超えるだけでなく地理的にも拡がり、国際的な比較研究が行われることも期待できる。 

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◆定価:4,180円(税込)

◆発行日:2024/03/19

◆目次◆

序章 目的と概要

1 研究の目的

2 研究の背景

3 本書における問い

4 本書の構成

第Ⅰ部 理論編―企業統治をめぐる環境的変化と従業員の発言

第1章 従業員の発言をとりまく労働市場・企業統治の変遷と現状認識

1 歴史的前提

2 労使関係とその原則

3 従業員の発言をとりまく企業統治環境の変化

4 賃金の変化と労働争議

第2章 発言行動の機能発揮―組織行動論と労使関係論

1 発言行動についての理論的検討

2 発言の定義をEVおよびNVに拡大すること

3 企業別労働組合と発言行動に関する先行研究

第Ⅱ部 事例編― 大手化学品・化合繊製造業における組織と従業員の発言の変化プロセス

第3章 研究の枠組み・方法

1 本研究の課題,問いの導出

2 調査対象

3 調査方法

4 調査内容と分析方法

5 想定される状況

6 経営難・変革の時期について

7 生成された定義・概念・カテゴリーとストーリーライン

第4章 組合分裂によるイデオロギー的切り離し(積水化学工業株式会社・積水化学労働組合)

1 会社の概要

2 労使関係の歴史的前提

3 組織の変化

4 従業員の発言の変化

5 小括

第5章 発言の機能発揮と積極的防衛(帝人株式会社・帝人労働組合)

1 会社の概要

2 労使関係の歴史的前提

3 組織の変化

4 従業員の発言の変化

5 小括

第6章 日本の産業化を担った協調型(C株式会社・C労働組合)

1 会社の概要

2 労使関係の歴史的前提

3 組織の変化

4 従業員の発言の変化

5 小括

第7章 分析,考察―伝わる声・伝わらない声

1 発見事実

2 考察

3 小括

総括

第8章 結論― 労働者の権利が問われる時代に「労使協調」を問い直す

1 研究成果

2 貢献,含意

3 限界と今後の研究課題

4 今後の研究に向けて

◆著者プロフィール

中川 亮平(なかがわ りょうへい) 長野県立大学グローバルマネジメント学部教授

1972年生まれ。

東京外国語大学ポーランド語専攻卒,米国コロンビア大学国際事情修士, 

大阪公立大学より博士号( 経営学)。

東京三菱銀行,American International Group(米国),

World Economic Forum(スイス),立命館大学国際関係学部講師,

京都外国語大学准教授を経て現職。

◆主な著作

Japanese Political Economy Revisited(Routledge,共著)

『多様な組織から見る経営管理論』(千倉書房,共著)

◆出版社ページ

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-49251-8

◆Amazonへのリンク

https://amzn.asia/d/g8meIkA

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