
上智大学 杉村 美紀学長インタビュー[後編]
■ 留学先は英米語圏以外にも広がりつつある
--上智では90カ国以上の学生が学んでいるとお聞きしましたが、海外に留学される日本人の学生は、今もやはりたくさんいらっしゃいますか?
杉村:他の大学も状況は同じだと思いますが、現在、円安が進むと同時に、航空運賃も海外大学の学費も、とても高くなってしまい、正直申しまして日本から海外への留学は大変です。しかし、それでも本学は、海外に行ってみたい、留学をしてみたい、と考えている学生が相当数います。ボランティアやインターンを海外で挑戦する学生もいます。
--たしかに、英米圏は留学費用もかなり高くなっているようですが、他の国に行くとしたらどんな留学先がありますか。
杉村:たとえば、「アフリカに学ぶ」というプログラムがあります。参加者のなかには女性の学生さんの参加が多いのも特徴です。
ほかにも、国際機関の役割を学ぶ、ニューヨークやジュネーブに行く人気のプログラムがあります。元国連職員だった卒業生の方がアレンジしてくださっています。
さらに、スーパーグローバル大学創成支援事業により、海外協定校も順調に数が増え、全世界に広がっています。スーパーグローバルが始まる前は、協定校の数は210校ほどでしたが、現在は400校を超え、目標を達成しました。交換協定・学生交換まで実施している学校だけでも340校ほどあります。
協定校は、もともと欧米に多かったのですが、最近は、東南アジアやアフリカ、中南米にも増えてきました。協定校ができると、アフリカや中南米に行ってみようという学生も出てきました。

--海外からの留学生数はどうですか?
杉村:来日する方の留学生に関しても、コロナ前のほぼ8割から9割に戻りつつあります。
目下、世界情勢の中で留学生の移動の地図は大きく塗り替わってきており、コロナ前とは明らかに違う動きも出てきています。今後、こういう動きにも注意して、大学としてはより良い国際交流に努められたらと思います。
--具体的に言うと、国際情勢によって留学動向に影響がある、などという例はあるのでしょうか。
杉村:旧来より、アメリカは世界でも皆が行きたい留学希望先の筆頭国でした。そして、現在でもアメリカは皆が行きたい国であることに変わりはありませんが、様々な理由で、アメリカ以外の国を選ぶ学生も増えてきています。とくに、世界の留学生の中心を占めているアジアからの留学生の動きが、これまでと違う流れを生んでいます。さらに、ここに来て、いわゆる地政学的な影響も出ています。アメリカも、新たに今までと違う国に留学生を送り出したりしており、日本との関係にも少しずつ変化が起こりつつあります。
--第2次トランプ政権で留学動向もガラッと変わりそうですね。たとえば、アメリカで学位が取りにくくなって、日本も含む他国との共同学位を導入する大学が増え、相対的に日本での学びの価値が高まるのではないかと想像していますが、いかがでしょうか。
杉村:もともとアメリカは学費が高く、公立の大学でも1年間に400万円ほどかかるという状況が続いてきました。こうした状況では、留学できないと考える学生は多かったと思います。それでも何とかしてアメリカで学位を取りたいという学生もいますが、現在は、日本からの留学生数は急減しており、一番多かった1999年頃と比べると、半数以下になっています。
他方、このような日本の状況とは裏腹に、中国を筆頭に、アジア諸国からアメリカへ行く留学生の数は、近年、着実に伸びていました。しかしながら、その状況もまた少しずつ変わりつつあります。たとえば、インドや中国からの留学生は、卒業後アメリカに残って就業することが多かったのですが、現在では、母国に帰って起業するというような学生が増えています。アメリカの大学も、今は以前とは異なって、自国の学生の留学や自国での学びをどのように作っていくかという課題に熱心に取り組んでいるように見えます。